美智の誕生日は昨日のうちに祝っておいた。何せ今週はすぐに試験のために部活が休みになってしまうので、速やかに撮影しなければならないのだから。
俺としては沢渡との絡みが結構あるのだけど、彼は全編を通して傷ついた表情をしているので、兄としての使命感に燃えてしまう。・・・あの綺麗な顔が精神的苦痛のために大きく歪むのだ。これは守ってやらなければと思ってしまうのは、俺でなくても当然だ。そしてその役目が俺だというのはとてつもなく光栄なことで・・・、というか何というか、妙にそそられるのは何故だろう?なんて余計なことは考えないで、演技に集中しなければ。
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自宅の廊下で、希が立ち尽くしているところに出くわした祐輔。
祐輔:どうした希?
希:いえ・・・別に。(と言いながら、自分のワイシャツの胸元を握り締める)
祐輔:いや、何だか顔色が悪いぞ。部屋に戻ったらどうだ?
希:うん、そうする。(一人で歩いていこうとするが、足元がフラついている)
祐輔:大丈夫じゃないじゃないか。ほらつかまって。(希の片腕を自分の方に回し、部屋のベッドに連れて行く)オフクロを呼んでくるよ。
希:(強い調子で)呼ばないで!(驚く祐輔。希はまた弱々しい声に戻って)大丈夫だから呼ばないで。寝ていれば治るから。(と言いつつ、気絶したように眠ってしまい、祐輔はその様子を見守るために椅子に腰を下ろす)
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「はい、カット」
今日の撮影は予定のところまでをこなして、無事に終了した。・・・しかし沢渡はまだ起き上がらない。
「沢渡、もういいぞ。・・・ん?どうした?」
俺が近づいて言うと、美智も心配顔になって、様子を見に来る。
「どうしたの沢渡くん。具合でも悪いの?」
彼の白い顔は表情をなくしている。ただ眠ってしまったわけではなさそうだった。美智が手首に指を当て脈は打っていることを確認する。・・・が、身体はピクリとも動かない。
「どうしたのかしら?」
その時、音楽が流れ美智は後ろを振り返った・・・途端に、あぁ、という顔になる。
そう、沢渡に時間稼ぎをしてもらっている間に、他の部員たちが美智のためにケーキを用意したのだった。
「お誕生日おめでとうございます」
「もう・・・、完全にしてやられたわ。ありがとう」
もちろん沢渡もベッドから出てきて、大きな拍手を贈っていた。