今日はスペシャルゲストとして、前部長の望月先輩が来ていた。
「後輩たちの様子が見られるのも今日が最後だと思って」
別に口出しはしないから自由にやってくれ、と言われ、俺たちは撮影に入った。
実は、2月3月にはコンクールに出てみることになっている。そして4月には新入生歓迎会で公演をすることになっている。・・・美智は本気だ。だから、頑張っている姿を先輩に見てもらえるのは嬉しいことだ。
沢渡を撮影しているところを、望月先輩と一緒に見ていると、先輩がこっそり言った。
「何をやらせてもソツなくこなせる人間がいるなんて、世の中は不公平だよな」
・・・あ、先輩が沢渡のことを認めている。そもそも、先輩はどうしてそこまで沢渡のことを目の敵みたいにしていたんですか?
「どうしてと言われても困るんだけど、身体が咄嗟に判断していたんだよ。・・・今は分かる。アイツは凄いヤツだ。俺はすっかり嫌われてしまったけど、お前は仲良くしておいたほうがいいぞ」
その言葉には納得できない。
「俺は損得を考えて人と付き合えるほど器用じゃありません。・・・アイツは実際いいヤツですよ。だから付き合っていきたいと思います」
先輩も悪い人ではないんだけど・・・俺はそこまで計算できないことが逆によかったのかもしれない。
「邪魔したな。コンクールはこっそり観に行こうと思うから頑張れよ」
そして先輩は去っていった。・・・さて、次は俺の出番。
部活では望月先輩からいろんなことを教えてもらった。俺は演劇に関しては全くの素人だったから、それこそ1から・・・立ち方、発声の仕方から教えてもらった。それが今では逆に教える側。でも俺は、まだまだ学ぶ姿勢をとり続けていきたい。演技というものは奥が深いから、やればやるほど、分かるようで分からなくもなる。そしてまた、違う役にも挑戦してみたくなる。
「カット。これで全シーン撮影完了です。お疲れさまでした」
また面白い作品ができたのではないかと思う。明日から試験勉強に取り掛からなければならないが、美智には編集作業もある。
完成版を観るのが楽しみだ。