最近朝霧には迷惑をかけっぱなしだから、試験勉強くらいは手伝ってあげないと・・・。
「いいよ別に気にしなくても。・・・でも言い訳を多めに考えておいてくれると助かるかな?」
ああ、そうだね。こう聞かれたらこう返す、というマニュアルはもっと必要かも。
実は今日は、宮殿ではなく自宅で勉強している。
「珍しいね、沢渡が試験勉強しているなんて」
と朝霧が言うのももっともだ。ここ数日、ありがたいことに忙しすぎてあまり勉強できていない。だから勉強に集中するために、・・・仕事の声がかからないように、自宅に帰ってきたというわけだ。
「僕だって、勉強するよ。用意が不十分なまま試験に臨むのは嫌だからね」
というか、僕の心配をしていないで、自分も勉強したらどうなんだ?
そしてしばらくしたら、ドアがノックされるのが聞こえた。
「あまり根を詰めないで、時々は休憩してね」
母がご機嫌な様子で飲み物とお菓子を持ってきた。・・・あ、コーヒーじゃない。
「加藤さんが、希は最近コーヒーを飲みすぎているから違うものにしてほしい、とおっしゃって」
加藤・・・。当然のことながら、朝霧を宮殿に送り届けるために我が家に待機中である。いや、別に一旦宮殿に帰ってもらっても問題はないのだけど、母が引き止めている・・・それもあって、母は笑顔、笑顔なのだ。
「分かったよ、ありがとう」
「朝霧くんもゆっくりしていってね」
ああ、何だか調子が狂うなあ。・・・ココアか。頭を使うときには甘いもの、というのは分かるけど。
「僕って近寄り難いイメージなのかな?」
ふと朝霧に聞いてみると、彼は苦笑した。
「もともとは僕もそう感じていたよ。こんな関係でなかったら、友達になろうとは思わなかった。でも、付き合ってみると本当は凄く友達思いのいい人だということが分かる・・・ただ今は、君が自分でそれを封じているから、そう思われて当然なんじゃないかな」
「そんなに露骨?」
「君は眼差しだけで人を殺せるタイプだから、もう少し気をつけたほうがいいと思うよ」
何なんだ、それは。・・・でも、視線に気をつけろ、ということは聞いておいたほうがいいかな。