試験一日目。無事に終わったけれど、実はこのあと約束がある。望月先輩から食事に誘われてしまったのだ。
もう3年生は自由登校になっている。なのにわざわざ僕に会いにくるだなんて、かなり複雑だ。
学食の個室で、僕たちは豪華な昼食をいただいていた。
「君は今の議会にも関わっているのかい?」
「はい。予算案の作成に関わらせていただいたので、議会の進行状況によっては、呼ばれることがあります」
「へえ~、それは凄いな。それなら学校に来ている場合じゃないんじゃないか」
「いえ、学校はとても楽しいです。今しか学べないことがたくさんあります」
「じゃあ俺も、今しか学べないことを教えてもらってもいいかな?」
はい?僕からですか?・・・この期に及んで何を聞きたいのですか。
「君は、自分が幸運だと思っているか?」
え・・・。僕は咄嗟に言葉を返すことが出来なくなってしまった。小さい頃の辛かった日々のことは、決して忘れない。でもそのおかげで、殿下や結城とお会いできたのも事実。
「難しい質問ですね。・・・そうかもしれませんし、そうでないかもしれません。しかし、僕は今の仕事を天職だと思っています。だから、その才能を見出していただけたという意味では幸運なのでしょう。ただ、だからと言って幸福になれたのかと言えば、まだそうではないと思います」
「今の生活には不満がある?」
「今のことだけではありません。・・・僕は今まで多くのものを失いすぎました。この空虚な気持ちは、そう簡単には埋められないと思います」
あ・・・。急に熱いものがこみ上げてきてしまった。こんなところで泣くわけにはいかない。
「先輩、こんなことを聞いてどうするんですか。僕の言葉を悪用したりしたら、法的手段に訴えますからね」
僕は涙を誤魔化そうと明るく言ったが、先輩は少しも笑ってくれなかった。
「・・・そうか、辛かったんだな。・・・泣いていいぞ」
そんなことを言われても・・・、と思ったところでもう遅い。熱い思いは次から次へとこみ上げてきて、すでに止められなくなっている。自分でもどうしてこれだけ泣けるのか不思議だった。しかも、あまり好意を持っていない先輩の前なのに・・・。