「まだここにいたのか」
・・・ああ、こんな時間。さすがに疲れも感じられるようになって来た。外国とのやり取りには時差がつきもので、となると、時間の感覚もだんだんおかしくなってくる。
でも、今日はまだマシなほうだったかな?昨日よりは話が前に進んだと思う。
「今もまた連絡待ちなんだよ。部屋に帰ったところでまたすぐに呼び出されるくらいなら、ここにいるほうがいいと思って」
「食事はとったのか?」
「さっき、軽く。・・・大丈夫だって。まだまだ余裕はあるよ」
そうか、と言いながら、結城は執務室のソファーに座り、内線で竹内にグレープフルーツジュースを2つ頼んだ。
本当は一昨日からほとんど寝ていないけれど、今はそれどころではないし、そんな気分にもなれない。見ると、結城もまた寝ていないような様子だ。
そして僕もソファーに移動して、ジュースを飲む。
「沢渡が騒がしくて困っているよ。もっと何かできることはないか?って。でもそうすれば、学校も休んでもらわなきゃいけなくなるだろ?だから、適当に仕事を割り振ってはみたけれど、まだ納得いかないらしい」
「予算に関して頑張ってもらったから、今回はいいよ。僕の番だ」
「だけど、そこまで責任を感じることないぞ。今のお前は、重量挙げ選手みたいだぞ」
はぁ?どんな例えなんだよ。分かるようで分からない・・・、まあつまり、腕がプルプル震えているのに、必死で持ち上げているということ?
「お前がそんなだから、沢渡もそれに似るんだ。いい手本になるようにな」
「だから、まだ大丈夫だって。・・・僕は結城に慰めてもらわなくてもいいよ。何やら、沢渡くんと濃厚なキスをしたという噂を聞いたけど?」
「何でお前が知ってるんだよ」
「それで、沢渡くんに拒まれたんだって?」
「そうだよ、やりすぎだ、と。・・・こっちこそ大丈夫だ。お前には指一本触れたりしないから」
「当たり前でしょ。結城とそんなことになりたくない」
「お前にはキスしたくならない」
あのね・・・、こんなことを言っている場合?
ほら、電話がかかってきた。仕事だよ、仕事。