学校中にウキウキモードが広がっている。他の学校のことは分からないけど、クリウスにはカップルがとても多いと思う。付き合っている人がいないと認めてもらえない、みたいな所もある。
そんな中を沢渡くんはいつもと変わらぬクールな様子で歩いている。今ではそれが当たり前のようになってしまった。・・・まゆとのことがあるまでは、もっと柔らかい感じがしたのに。
「おはよう」
「おはよう」
そして私にも、部活以外の時間には笑顔を見せなくなった。・・・だから余計に、役に入ったときに甘い表情を私に見せてくれたりすると、ドキドキしてしまう。どうにかならないのかな。いつまでも慣れない・・・どころか、沢渡くんは日に日にエスカレートしている気がしないでもないんだけど。
そして昼休みに沢渡くんは早速由利くんと話をすることになって、私は村野さんと昼食をとることにした。
「沢渡くんには遠慮がないわよね」
そう・・・周りにはカップルがたくさんいるのに。
「でも、それだけ役に真剣に取り組んでいるってことよね。・・・ああ、ますます気が重い」
「贅沢な悩みね」
村野さんは沢渡くん・・・どころか自分の恋愛にもあまり興味がなさそうなのに、他人の恋愛には興味があるみたい。
「そうなんだけど、実際、沢渡くんってちょっと重いのよ。私には受け止められないくらい、全部愛してくれるの。例えば、ドアを開けてくれるだけではなく、荷物も全部持ってくれるみたいな」
そうなのかな?・・・と村野さんは首を傾げている。
「そんな風に愛されたら本当に幸せだと思うよ。でも、役の上でだけっていうのはかなり複雑。本当に愛されているわけじゃないのに、そんな特別な面を見てしまうなんて・・・、特に今の沢渡くんとはギャップがありすぎるから困っちゃう」
「そんな沢渡くんは、大切な人と毎日を過ごしているのかしら?」
「それはもちろんでしょう。加えて、かなりマメそうな感じだもんね。究極の王子さまよ」
「でもかなり不器用そうな気もするよ」
今度は私のほうが、そうなのかな?という感じ。
「普通、ここまでお節介する?妙に律儀というか、情に厚いっていうか、・・・そういうところはかわいいよね」
沢渡くんがかわいい?・・・なんてとても思えないんだけど。