コンクールまであと一週間。私たちカップルの演技はとてもよくなったと、部長から誉めていただいた。そのことはもちろんとても嬉しかったけれど、だんだん沢渡くんを見るのが辛くなってきた。というのは、沢渡くんはあんなことをしておきながらも、平然としているから。
帰り道、村野さんと一緒に喫茶店に入って、話を聞いてもらった。
「どう考えたって、沢渡くんは普通の神経の持ち主じゃないよね。今になって、まゆの気持ちがよく分かった」
特にまゆは沢渡くんが好きだった。だから余計に、演劇のためだけに優しくされたことは辛かったと思う。
「でも今の時期に、やめて、なんて言えないよ。折角今日は部長から誉めてもらったのに、そんなことをしたらみんなにも迷惑をかけちゃうじゃない。それに私だってもちろん、コンクールではいい賞を獲りたいし」
でも、それまで私の神経が持つのかどうか・・・。
「こんな時には、由利くんに会いに行ったほうがいいんじゃないの?沢渡くん以上に愛してもらえば問題ないわけでしょ?」
「・・・でも、由利くんがそんな王子さまタイプに見える?」
がっちりした身体に、無骨な態度。・・・背が高いことは唯一の共通点だけど、印象が違いすぎる。
「王子さまかどうかは私には分からないけど、要は、好きな人から優しくされるってことが大事なんじゃないの?そうやって沢渡くんと比べてしまっているのは、由利くんに失礼だよ」
確かにそれは言えているかも。・・・私は舞台の上で沢渡くんから優しくされながら、これが本当だったらいいのに・・・と思っていた。それってれっきとした浮気?
「うん、明日は由利くんとデートする約束だから、少しはマシになるかな?」
「そうよ、部活も休みなわけだから」
うん・・・。
「でも、部長には伝えてもいい?そうすれば、兼古先輩が沢渡くんに話してくれるんじゃないかと思う。沢渡くんも一生懸命なゆえにやっていることだから、無下にはできないじゃない?でもきっと、部長や兼古先輩なら、うまく解決してくれるはずよ。沢渡くんも、先輩たちの言葉は素直に聞き入れているみたいだし」
そうだよね。・・・以前ほどでないにしても、やっぱりこの作品は私たちを惑わせる。
うまくいくといいんだけど・・・。