絶対比べない。私の彼氏は由利くんなのだから。
今日は決めていた。一旦演劇のことは忘れて、素直にデートを楽しもうと。そのほうが、明日からまた新鮮な気持ちで役に入れると思ったから・・・。
私たちはスポーツ物の映画を見て、その後公園のベンチで話していた。
「ひとつ聞いていいかな?」
由利くんが改まった様子で聞く。・・・どうしたの?
「沙紀ちゃんのタイプってどんな人?」
・・・幸いなことに由利くんは、私がほんの少し朝霧くんと付き合っていたことは知らないみたい。でも、ここで由利くんがこんなことを聞いてくるということは、沢渡くんのことを意識しているから、と思ってよさそう。
「まだどんなタイプの人かは分からないよ。・・・って言うのは、カッコイイと思う人が、そのまま彼氏にふさわしいかといえばそうじゃないと思うのよね。付き合って見ないと分からないことだってあるでしょ?」
由利くんは、どうしたものかと困っているような感じだった。
「その点、私は今、とても楽しいよ」
「本当に?」
「本当だよ。逆に由利くんはどうなの?今楽しい?」
「それはもちろんそうだよ」
「よかった、だったら何の問題もないよね」
私は彼の腕にぎゅっとしがみついてみたりする。・・・私には派手な彼氏は似合わない。由利くんと、地味ながらも堅実に行くタイプなのよ、きっと。
「ねえ、無理してない?」
?どうしてそんなことを聞くの?・・・私は驚いて、彼の腕から離れる。
「だって僕は、沢渡くんとはまるで違うタイプだよ。カッコよくないし、成績もよくないし、あんなふうに、はきはきしゃべれないし」
「急にどうしたの?沢渡くんにはちゃんと恋人がいるんだから、私とどうかなったりしないって」
「でも、たかが役のためにそこまで熱くなれるのかな?沢渡くんは僕が知らない沙紀ちゃんのことをいっぱい知ってて・・・、本当の彼氏みたいだった」
ちょっと待ってよ。そんなに卑下しなくても。・・・でも聞き捨てならない言葉が一つあった、「たかが役くらい」って。
そして私は立ち上がった。