考えなければならないことがたくさんある。殿下は今外国に出張に行かれているので、何かのときのために備えていなければならないし、議会解散中の政界の動きも見ておかなければならないし、何よりコンクール前である。
でもそんな時に村野さんから「沙紀ちゃんのことは放っておいてあげて」と言われたことは、安心材料につながっている。この異常なテンションのときには何をしでかすか分からない、でも面と向かって言われたことで、沙紀ちゃんに構ってあげられなくても後ろめたさを感じずに済む・・・実際、コンクールのことはあまり考えていられない。だから余計に、部活の時には集中しすぎておかしくなってしまうのかな?
夕食は、朝霧とともに僕の部屋で。
「忙しそうだよね、大丈夫?」
結構疲れてきているのか、あまり食欲が湧かない・・・ことに、気づかれたかな?
「忙しいよ、ありがたいことに」
おかげで授業中に眠気が襲ってきたものだから、授業は聞かないことにして仕事のことを考えるように努める羽目になった。
「今回の作品は、前回よりうまく行きそうな気がするよ。沢渡の気迫が違うから」
嬉しいことを言ってくれるね、頑張っている甲斐があるというものだ。僕と朝霧との絡みもいい感じになっていると、部長から誉めてもらった。
「この間ね、兼古先輩と僕との間で揺れ動いている演技をしているとき、何が何でも兼古先輩に渡したくないと思ってしまったよ」
「・・・僕自身、気持ち的に不安定なところがあるから、あのシーンはやりやすいんだ」
「そんなことを言ってしまって大丈夫?」
「だって、朝霧に隠したってしょうがないし・・・」
僕は日々、いろんなことで迷っている。でも演劇の世界では、どんなに迷っても何らかの結末が決まっているから、どれだけ悩んでも大丈夫。逆に、葛藤の様子が大きいほど盛り上がるのだから、思う存分悩めることは幸せだ。・・・あんなふうに、僕自身の悩みもうまく消えてくれるといいのに、と思う。
「だから、思い切り僕のことを引っ張ってよ。舞台でしか味わえないことだから」
・・・なのに、朝霧は冴えない顔?
「そういうことを言われても・・・、なんだか調子が狂ってしまうよ。沢渡は僕のヒーローでないといけないのに」
やっぱり、僕の周りの人相手には、普通は通用しない、か。