授業が終わり部活に行こうかと廊下を歩いていたら、由利くんと沙紀ちゃんが話しているところを見かけた。二人の表情からすると仲直りはできたみたいなのかな?もちろん、ここで二人に見つかってしまうとまたおかしいことになってしまうので、気づかないふりをして立ち去ろう・・・としたら、
「沢渡くん、ちょっと」
と沙紀ちゃんに呼び止められてしまった。・・・場の空気を読め、と自分に言い聞かせる。
「何?」
「ごめんね、私たちもう大丈夫だから」
あ・・・、うん。
でも、チラッと由利くんのほうを見ると、あまり好意的な感じではないような気がした。・・・ここで僕も謝っておくべきなのかな?僕のせいでケンカしてしまったわけだから。
「あの、由利くん・・・」
「いいよ。これは僕たちの問題だから」
・・・あの、僕は何も言っていないんだけど。勝手に納得しないでくれるかな?・・・でも彼がいいって言った以上、話は終わったのだ。さっさと部活に行くしかない。・・・そうだよ、だったら最初から呼び止めなければいいのに。まったく、どうなっているんだか、何をしたいんだかよく分からない。もっと会話した上で、解決していこうよ。
本番は三日後。今日は衣装を着けて、実際にセットを動かしながらのリハーサルだ。驚いたことに、コンクールには殿下もいらっしゃるとのこと。もちろん、予期せぬことが起こらなければということだけど、明日は殿下の誕生日なので、いい成績を収めてプレゼントできるといいな。
「沢渡くん、沙紀ちゃん。ちょっと」
部長が呼んでいる。
「二人とも、今日は集中力が欠けているみたいね。セット転換とか立ち位置の確認がメインなのは分かるけど、昨日とは大違いよ」
「いえ、そんなつもりは!」
「そんなことありません」
僕たちはほぼ同時に声を発した。別に気を抜いているつもりは少しもない。
「沢渡くん、何か他のことを考えているの?それから、何だか疲れた顔をしているわよ。沙紀ちゃん、沢渡くんに気持ちが向いていないみたい。・・・二人の立場が微妙なのは分かるけど、舞台の上には持ち込まないで。二人とも好きで演劇をやっているんでしょ?役者なら、舞台の上では最善をつくすこと」
はい・・・。本番直前なのにこんなことを言われるなんて最低だ。疲れているのは事実だけど・・・、それは肉体的にと言うより精神的にだよね。今夜はリラックスすることを心がけよう。