でも実は、貴くんに言えないことがある。・・・モーリス殿下とメールのやり取りをしていること。
モーリス殿下は、例の女性のことはきっぱり諦めて、違う女性に恋をしている模様。・・・さすが、殿下には引く手数多。でもそれが本当の恋なのかどうなのかよく分からないみたいで、悩んでいらっしゃる。
今日も、休み時間に携帯電話を見ると、世界標準語で書かれたメールが入っていた。・・・これなら私も返事が書ける。
“僕は彼女のことを一旦想い始めると、何も手につかなくなってしまう。でも、仕事に追われているときには、彼女のことは全く考えなくなる。・・・これって、おかしいのかな?”
・・・いつも思うのだけど、いかにもなプレイボーイに見える殿下が、こんなメールを送っていらっしゃるなんて意外。でも、昨日の同僚の話からしても、人は見かけによらないものなんだろう。
“おかしくはありませんよ。私も仕事中は仕事のことしか考えませんし、彼にしてもそうだと思います。別に無理して相手のことを好きでいる必要はないと思いますよ。自然に湧いてくる感情に従って行動すればいいのではありませんか?”
するとまた、次の休み時間までには返事が入っている。
“僕がMaiのことを好きなのは分かるのだけど、彼女に対する僕の気持ちはよく分からないんだよね。・・・今はMaiと話したい気分なんだ。電話してもいいかな?”
“それは困ります。まだ職場にいますから”
送信。・・・はぁ、と思わずためいきが出る。この方はどうしてこうなのだろう。
「杉浦先生」
うわっ、ビックリして携帯を閉じると、昨日話した同僚の先生だった。
「もしかして殿下?」
「ううん、違うわ」
違う殿下、とは言えない。
「このところ結構休み時間にメールをしているじゃない?それで怪しいと思われた先生もいらっしゃるそうよ」
・・・だから、違うんだけどね、と思っていたら、またメールが来た。
「見ないの?」
・・・見たくありません。
「貴くんって出てるよ」
・・・もう、勝手に見ないでよ。これは見ます、はい。