近所で買い物をしていたら、保護者の方にお会いしてしまった。
「先生、もうすぐお辞めになるというのは本当ですか?」
やっぱり情報はどこからか漏れてしまうもののよう。でもここで否定をすると嘘になるので、
「はい。ただし、まだ内密にお願いします。子どもたちを不安にさせたくないのです」
とお話ししておいた。
「そうですね。娘がよく先生の話をしてくれまして、先生みたいになりたいといつも言っているものですから」
そんなことを言っていただけると光栄だ。このご時世、教師という仕事は大変だけど、今の言葉だけで疲れが吹き飛んでいくような気がした。
「それで、どんな方と結婚なさるのですか?」
・・・前言撤回。さっきのはただの前フリだったみたい。
「高校のときの同級生と」
「響殿下と?」
・・・だから、どうしてご存知なんですか?
「ええ、まあ」
「ではそれこそ、娘の憧れになりますわね。・・・話したくてしょうがないわ」
「いえ、それはまだ困ります」
「やっぱり、クリウスには素敵な出逢いがありますか?」
・・・保護者はそこまで調べるのが普通なんですか?
何だか調子が狂いっぱなしの一週間だった。誰も彼も一様に祝福してくれるのでそれは嬉しいのだけど、公になっていないばかりに探りを入れられるのは、あまり気持ちいいものではない。
“やっぱり、先生方みんなに挨拶すべきだったかな?”
「そこまでする必要ないわ。学校のことは私自身で何とかする。ただ、少し心細くなっただけ。お祝いしてもらっているのに変よね・・・」
“変じゃないよ。他人から詮索されても平気な人なんていない。でも、学校も今忙しい時期なんでしょ?何もしないほうがいいのかもしれないね。そのうちほとぼりも冷めるだろう”
「そうかもしれない。・・・けど」
“けど?”
「会えないかな?・・・今夜か明日」
“ごめん。今夜は物理的に不可能だから、明日ね。時間はまた連絡するよ”
・・・そして電話を切ると、おやすみ、のビデオメールが届いた。