3/5 (土) 19:30 不安

近所で買い物をしていたら、保護者の方にお会いしてしまった。

「先生、もうすぐお辞めになるというのは本当ですか?」

やっぱり情報はどこからか漏れてしまうもののよう。でもここで否定をすると嘘になるので、

「はい。ただし、まだ内密にお願いします。子どもたちを不安にさせたくないのです」

とお話ししておいた。

「そうですね。娘がよく先生の話をしてくれまして、先生みたいになりたいといつも言っているものですから」

そんなことを言っていただけると光栄だ。このご時世、教師という仕事は大変だけど、今の言葉だけで疲れが吹き飛んでいくような気がした。

「それで、どんな方と結婚なさるのですか?」

・・・前言撤回。さっきのはただの前フリだったみたい。

「高校のときの同級生と」

「響殿下と?」

・・・だから、どうしてご存知なんですか?

「ええ、まあ」

「ではそれこそ、娘の憧れになりますわね。・・・話したくてしょうがないわ」

「いえ、それはまだ困ります」

「やっぱり、クリウスには素敵な出逢いがありますか?」

・・・保護者はそこまで調べるのが普通なんですか?

何だか調子が狂いっぱなしの一週間だった。誰も彼も一様に祝福してくれるのでそれは嬉しいのだけど、公になっていないばかりに探りを入れられるのは、あまり気持ちいいものではない。

“やっぱり、先生方みんなに挨拶すべきだったかな?”

「そこまでする必要ないわ。学校のことは私自身で何とかする。ただ、少し心細くなっただけ。お祝いしてもらっているのに変よね・・・」

“変じゃないよ。他人から詮索されても平気な人なんていない。でも、学校も今忙しい時期なんでしょ?何もしないほうがいいのかもしれないね。そのうちほとぼりも冷めるだろう”

「そうかもしれない。・・・けど」

“けど?”

「会えないかな?・・・今夜か明日」

“ごめん。今夜は物理的に不可能だから、明日ね。時間はまた連絡するよ”

・・・そして電話を切ると、おやすみ、のビデオメールが届いた。

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