呼ばれたのはセカンドハウス。意外にも貴くんは元気そうで、会うなり私に優しくハグをしてくれた。
「最後が肝心なのに惑わせてしまってごめんね」
・・・ずっとバレなければこんなことにならなかったのかもしれないけれど、今まで取り立てて隠そうとしなかった私たちがいけないのよね。
「それで、本当に何とかなりそうなの?」
貴くんはあくまでも私を尊重して、聞く。
「何とかするしかないわ。だって、私の職場だからね」
「でも、あんまり無理しないように」
うん、ありがとう。会って少し言葉を交わしただけで、随分落ち着いているから不思議。
「貴くんは平気なの?」
「何が?」
「この忙しい時期におめでたい話が持ち上がって、浮かれてる、みたいに思われても」
今週の報道では少なからず、貴くんに向かって結婚のことについてのコメントを求めるシーンが見受けられた。世の中では明日から選挙が始まるというのに。
「僕は別にどう思われようと構わないんだ。隠そうとすれば余計におかしいことになるから、言いたい連中には言わせておく、ただそれだけだよ」
どうしたらそんなに開き直ることができるの?
「だって、今回のことは僕にとって嬉しいことじゃないか。本当は早く話したくてたまらないくらいなんだよ。だからそれをわざわざ否定することもないでしょ?でもそれで舞に迷惑がかかるのは嫌だから、こうして考えようとしているわけ」
「・・・その心の余裕はどこから来るのよ」
「それはね・・・、考えなければならないことが多くなりすぎると訳が分からなくなってきて、細かいことまでいちいち気にしていられなくなるということだよ。こうでもしないと、この仕事は務まらない」
確かに、昔から、能天気というか、マイペースというか、飄々としすぎているところがあるとは思っていたけど、まさかここまでだとは・・・。
「それからもう一つ、もちろん、好きな人を思う気持ちがあるからだよ。忙しいとき、疲れているときでも、これを乗り切ることができれば舞に会うことができる、と思うだけで頑張れる」
貴くん・・・。
「だから、深刻に考えないで。時には心の中を空っぽにすること、そのことだけにとらわれすぎないこと。いいね」
やっぱり彼は、殿下ではなく貴くん・・・という感じがした。