今度は貴くんから電話がかかってきた。
“舞、今後モーリスからメールや電話が来ても無視するように、分かったね”
・・・いつの間にバレていたの?
“アイツも、舞を悩ませていた要因の一つだったんだね、悪かったよ。厳しく叱っておいたから許してくれないかな?”
厳しく叱ったって?・・・というか、これまでの経緯を教えてよ。
“え?だってアイツが余計なことをボロッとこぼすから、突っ込まないわけにはいかなくなったんだよ。ああいう男にはガツンと言ってやらないと、また後で面倒なことになるから・・・”
「だったら、謝らなきゃいけないのは私のほうよ。忙しい貴くんの手を煩わせてしまったわけで・・・」
“でもこれ以上二人の関係が深くなっても困るじゃないか。気づかなかった僕がバカだったよ”
・・・とても疲れた声。だって、貴くんが怒るところなんて私ですら想像できない図だし、それだけ多くのエネルギーを使ったってことだよね。でも、ちゃんとやきもちを焼いてくれるんだということに感動。
「いいよ。今回のことは私のほうも悪かったわけだし、しばらく忘れようよ」
“そうだね。アイツのせいで疲れているのもバカバカしいからね”
「・・・ねえ、貴くん」
“何?”
「貴くんには、女性の影が見えないんだって」
“何それ?”
よかった。笑ってくれた。私のことを心配してくれたお返しに、少しでもリラックスしてもらわないと、と思って、この間同僚から聞いた話をしてみた。
“僕的には、響殿下は女性と親しくしすぎ、と思われているに違いないと思っていたから驚きだね。・・・でも舞はそんなこと思ってないでしょ”
「その通り!」
“よかった。舞には見る目があって”
「よくないわよ。貴くんは気が多いから、心配してるのよ」
“じゃあ聞くけど、僕が浮気なんてしたことあった?”
・・・何よ、今度は急に開き直っちゃって。
「一緒にいないから分からないよ。そんなことはない、と信じるだけ」
“あ・・・ごめん”
あ・・・、私の方こそ、落ち込ませるつもりはなくて・・・。
「でも女の勘では、そう感じたことはないわ」
“もちろんだよ。僕には君だけで精一杯だから”
・・・電話を切る頃には、モーリス殿下のことはすっかり忘れてしまっていた。