「よかった、今日は機嫌が直ってる」
もう、結城。入ってくるなりその言い方は何?
「僕はいつも穏やかだって評判なんだけど?」
「それは沢渡の中でだけだろ?」
失礼だな、全く。・・・でも今回のモーリスのことに関しては、久々に頭に来たというか、気がついたら一方的に言葉を発していたというか。その裏にはいつの間にかたまっていたストレスの影響があったんだろうな、と反省するところもあったけれど、僕は絶対謝らないぞ。
選挙の予想はある程度できている・・・とはいえ、いくつかのパターンを考えている。そしてそれを臨機応変に活用して、速やかに組閣できるように準備をしておかなければならない。よって例のごとく、打ち合わせ、人に会う、会議、一人になってまた考える、の繰り返し。運動不足故にストレスがたまっているというのもあるかも。
「の割には、舞さんのために外出することが多かったんじゃないか?」
「うん。学校に行ったのは結構面白かったよ。できれば、子どもたちにも会いたかったかな?」
「もしかして、報道を抑えなかったのも、学校に行きたいがためだった、なんてことはないだろうな」
「それは言いすぎだよ。時期的に悪いのも分かっている。でも僕としては、そろそろ我慢するのもやめにしたいと思うところがあってね。まあいいか、みたいな」
「そうかそうか。響も普通の恋する男なんだな」
「根本的にはそうだよ。仕事ばかりしていても、国民のいい手本にならないでしょ?」
「またお前は、そういうときだけ自分の地位を利用する・・・」
「いいじゃないか。犠牲を伴うところもあるんだから、それくらいでちょうどいいでしょ」
結城は呆れたようにソファーに深く沈みこんだ。彼が思っていることは分かる。ああ言えばこう言う。
でもまた、何かを思い出して身を起こした。
「やっぱりまだ、沢渡を役職に就けるのは早いかな?これもいい機会だとは思うんだけど」
「でも学生生活を楽しませてあげたい、って言ったのは結城のほうじゃないか」
「別にいきなり長官にさせなくてもいいんだ。事務次官くらいの肩書きはあげたほうがいいかと」
「今後のためにも?」
「そう」
・・・大体予算案については可決されているものの、議会中に解散したものだから、中川長官は続投される可能性が高い。するとその長官の任期が終わるまでは・・・、と言ってももう一年を切っているから、すでに避けては通れない問題になっている。
新総理とも相談しなければならないね・・・。