親父は無事に再選を果たし、家内の緊迫した雰囲気は一気にお祝いムードに変わった。・・・それにしても、選挙運動中は外に出るのが恥ずかしい。どこに行っても父のポスターがあり、また選挙カーなんかに遭遇したら大変だ。パッと見では、別に息子だと分かるはずなどないのだけど、絶対逃げてしまう。
もちろんクリウスではしょっちゅう冷やかしが入る上、中には政治家になろうと考えている連中がいるので、知ったかぶりの意見をぶつけてくる者もいる。・・・どちらかと言えば、後者のほうが嫌いだ。俺に政治のことを言われてもどうしようもないのに。
それを振り切るためにも、新入生歓迎会のために力を注ぎたい。生徒会長としては、今年から趣向が変わるために新たな打ち合わせが必要となっているし、演劇部としては、この機会を利用して入部希望者を増やしたい。・・・特に女の子の。
今日も、沙紀ちゃんから裏方に回りたいという申し出があった。・・・部活外では女の子に人気があるはずなのに、どうしてウチの部に限ってはこうなのか。
「これからは恋愛を主題にはしないほうがよさそうね。みんな役に入り込んでくれるのは嬉しいことだけど、おかげで現実と虚構の区別ができなくなってきてるから」
・・・沢渡の場合は、敢えて深みにはまろうとしているような気がしないでもないが。
「でもいずれにせよ、コンクール向けの作品としてはそのほうがいいだろう」
「そうね。感動の大作に仕上げて見せるわ。お楽しみに」
美智は楽しそうにウインクをした。そう、今年は俺たちにとって最後のコンクールだし、ぜひとも優勝したい。演劇に取り組めるのはおそらく今だけだろう。だから高校生活のいい思い出に・・・。
の前に、やっぱり話しておいたほうがいいだろう。
「沢渡、ちょっと」
・・・何だか疲れてないか?大丈夫だろうか?
「お前は本意ではないかもしれないけど、女の子の入部を募らないといけない。それをまず念頭に置いてくれ」
はあ、と冴えない返事。どうして彼はこうなのだろう。ちゃんと恋人もいるみたいだし、女の子の扱いに慣れていないというわけでもないのに。
「だからって、別にお前のスタイルを変えてほしいなんて言わないけど、あんまり女の子を追い詰めるようなことはしないように」
「・・・そうか、追い詰めてしまうんですね、僕は。今の言葉は的確だ・・・」
・・・妙なところで感心して。疲れついでに頭までちょっとおかしくなったか?