昼間、珍しくオフクロからメールが来た、と思ったら、
“お父さんが建設大臣に就任することになったわよ”
だって。・・・あぁ、これで俺は大臣の息子かよ。ますます親の存在が重くのしかかってくる。めでたいことだとは思うけど、俺の立場は微妙だな。
家に帰ると、花やら食べ物やら、たくさんのものが届けられていた。テレビでは新内閣についての報道が大々的になされていて、親父も記者のインタビューに答えていた。・・・国に対してはいことをしているかもしれないけれど、家族にはほとんどいいことをしない人なのに、あんなにちやほやされて。
しかも、さすがに今日は帰ってくるまで待っているように言われ、いつになるのか分からないのに、起きていなければならなくなった。・・・迷惑な話だ。
仕方がないので部屋で映画のDVDでも観ることにすると、弟がやってきた。この弟は引っ込み思案というか、何をやりたいんだかよく分からない、俺とは正反対のヤツで・・・いや、俺も将来何になるのかは決めていないけれど。
「何か落ち着かないから、一緒にいてもいい?」
「別に好きにすればいいけど」
普段弟とはそれほど会話をすることもないが、今日はさすがに学校でもあれこれ言われたのかもしれない。その辺りは二人きりの兄弟として、同じ気持ちを味わっているということで・・・。
「お前は将来何になるんだ?」
「・・・何かな?よく分からない。でもクリウスよりはイストに行きたい」
イストはクリウスとは打って変わってお堅いエリート学校で、俺とは無縁の世界。でもそれは俺より成績がいいという意味でもあるので、ちょっとムカつく。
「政治家になりたいと思ったことはある?」
「・・・ないよ。だって僕はしゃべるのが得意じゃない。それは全部兄貴のほうにいったみたいだね」
「でも成績のよさはお前のほうにいったみたいだな」
かといって、どちらも兼ね備えている親父のことが偉いとは決して思わないが。
「僕がクリウスに行きたくないのは、成績の問題からじゃないよ。だって兄貴はカッコイイ上に生徒会長までやっている有名人だから、今でさえ比べられているのに、わざわざ同じ学校に行きたくなんかない」
あ・・・、そうきたか。
「なら、胸を張って堂々とイストに行けばいいじゃないか。これはお前の人生なんだから、お前の得意なことで勝負すればいい。比べられるのが嫌なら、お前のほうが優位に立てばいい」
ふと浮かんだ言葉だったけど、まるで自分に言っているかのようだった。