最近殿下とご一緒させていただく時間が長い。それはとても光栄なこと。この機会に少しでも殿下から学んでおきたいと思う。
と思ったら、今日は仕事の帰りに、一緒に息抜きをしようとのこと。
「今からは仕事の話はなしだからね。息抜きは大事だよ」
そして殿下は、歩いて帰るからいいよ、何ておっしゃって車を途中で降りられた。・・・まだ街のど真ん中なのに。
殿下は散歩がお好きで、宮殿内でもよく歩いていらっしゃる。でもやはり外の空気が吸いたくなるとのことで、街中もよく一人で散歩されているとのこと。
「例のお土産、もうすぐ届くからね」
「ああいうのは普通、お土産なんて言わないんですよ」
僕は来週引越しすることになっていて、その新しい部屋には、昨年殿下が約束してくださったグランドピアノが置かれる。結局部屋のコンセプトは、できるだけ生活感を出さないことで、インテリアコーディネーターともよく相談して、宮殿の一室を改装していただいた。
「引っ越したら早速演奏会を開いてね。・・・舞も誘っていいかな?」
「もちろんです。僕のつたない演奏でよければ、どうぞ」
舞さんは、間もなくお妃教育を受けられることになっているそう。
「でもね、議会がドタバタしたおかげで、まだご両親への挨拶が済んでいないんだ。それから、舞を少し休養させてあげたいんだけど・・・、来月に少し旅行に行ってきてもいいかな?」
「僕に協力できることがあれば、おっしゃってください。一応僕は殿下の代理を任されていますし」
「それは、場合によりけりだけどね」
・・・すみません、僕がまだ至らなくて。
「ううん、今のは冗談。沢渡くんは頼もしいから助かるよ。それに比べて僕は、この間劇場で兼古くんと清水さんを見かけたとき、思わず声をかけようとしてしまったくらいだからね」
「先輩方は、殿下と目が合ったと言っていましたよ」
「僕にも沢渡くんの気持ちが分かったよ。身近な人に隠し事をしなければならないなんて辛いよね。できるだけ早く、沢渡くんに快適な生活をしてもらえるように検討するよ」
いいえ、僕のことはいいんですよ。殿下のほうこそ、もっと自分のために時間を使われてはいかがですか?
「殿下、僕とより舞さんと一緒のほうがいいのではありませんか?」
「大丈夫、それは沢渡くんが心配する問題ではないよ。・・・そうだ、足湯につかりに行こうか。気持ちいいんだよ」
・・・足湯?殿下の見聞の広さには脱帽です、はい。