今日は殿下に相談に乗っていただこうと思って執務室に伺ったら、私室に招待してくださった。
「僕の将来のことなのですが・・・、進路希望調査書にはどう書けばよろしいでしょうか?」
春休み明けに提出するようにと言われた第1回進路希望調査書。この間先輩から聞かれてしどろもどろになってしまったことへの反省も含めて、ある程度選択肢を絞り込んでおくべきだと思った。
「そうだよね~、今更入宮試験を受けたいなんて書くのも変だよね~。というのは置いておいて、今後はもっと仕事をしてもらいたいと思っているんだ。沢渡くんの評判はいいんだよ。だから、近い将来表に出てもらうことになるだろう・・・おそらく在学中に」
在学中に、ですか。
「でも、君自身が好きなようにしたらいいよ。大学に進学するのもいいだろう。・・・でもできれば、外国はやめてほしいかも」
「・・・僕にはどのくらい仕事をさせていただけることになりそうですか?」
「それは普通に忙しいくらいにね。だからそう考えると、大学に通う時間があるのかどうかというのも疑問だよね。僕としては、大学でしか勉強できないことだってあると思う。できるだけ見聞を広げてほしい。でも大学に限らず勉強する場はどこにでもあるし、大学にはいつでも行ける。正直なところ、今後のことは僕にも予測がつかないから、決断は急がなくてもいいんじゃないか?君の成績なら、どこにだって行けるだろう」
好きなように書いていい、ということですか。でも一つだけ思うのは、政治や法律をわざわざ大学で学ぶ必要はないということ。今後表に出ることになったら尚更だろう。
「殿下はどうして、大学に進学せず入宮することに決められたのですか?」
「うん・・・、僕は早く自立したかったんだよ。いずれ入宮したいとは思っていたけど、だったら遠回りせずに早く実現させたかったというのもある。それは人によりけりなんじゃないかな?人生は長いから遠回りも無駄ではないし、夢に向かってまっしぐらというのも素晴らしいことだ。・・・僕はこの選択をしてよかったと思っているよ。ただ、あまり君の参考にはならないかもしれないね」
そんなことはありませんけど・・・僕は自分が大学に行く姿を想像してみた。その頃には有名になっているのかな?そして大教室で講義を受けながら・・・居眠りしていたりして?ダメだ、それは。
「あくまでも僕の意見だけど、政治とは関係のないことをやってみるのも面白いかもしれないよ。例えば芸術に親しんでみるとか、心理学をやってみるとか」
芸術は・・・絵は描けないし、ピアノは・・・もう少しやってみても面白いかもしれないけれど、やっぱり建築かな?興味があるのは。心理学は・・・面白そうな気はするけど・・・。
「演劇をやるのもいいかもしれないけれど、仕事を選ばなければならないかもしれないね」
はい・・・。僕の人生は決められているんだか決められていないんだか、どっちなんだろう?難しい選択だな。