先日のできごと。
仕事が少し落ち着いてきたので、舞のために時間を割こうと思う。仕事まで辞めてもらいながら挨拶に行けていないなんて、失礼過ぎる。それに彼女自身のケアもしてあげないと・・・。
とはいえ、彼女の職場のお別れ会に参加したところで、僕はどうしたらいいのかな?さすがにネタに困りそうな気がして、あくまでも彼女を迎えに来たということにしようと思った。
「こんばんは」
「本当に来てくれたのね、ありがとう」
なんて手をつないでくるあたり、相当お酒が進んでいるようだ。それはもちろん周りの先生方も。
「初めまして、の方がほとんどですね。こんばんは、響です。彼女がお世話になり、ありがとうございました」
「とんでもございません。杉浦先生は殿下とお付き合いされているなど一言もおっしゃらなかったものですから、驚きました。実は話を伺っても信じられなかったのですが、こうしていらしたとなると、やはり本当だったのですね。この度はおめでとうございます」
「そのことなのですが、時期が来るまでは、みなさんの心の内にとどめておいてください。実は、私としたことが、まだご両親への挨拶が済んでいないのです。お父さまが、私たちの結婚を許してくださればよいのですが・・・」
「それでは殿下、まだ婚約されていないのですか?」
「ええ、まだなんです。気に入っていただくためには、どうすればよろしいでしょうか?」
「殿下が断られるはずはないでしょう・・・面白いお方だ」
しょうがない。ここで素直に、黙っててくださいね、なんて言っても聞き入れてはくれないだろうし。でもよかったみたい、これで僕もみなさんの話の輪に入れていただけたみたいだから。
「ご結婚はいつ頃のご予定ですか?」
「秋頃でしょうか・・・無事に許していただけたら」
「だから大丈夫ですよ。もし許していただけなかったら、私たちが署名活動をしますから」
「ありがとうございます。いずれにせよ、許していただけなくても結婚はするつもりです」
「杉浦先生は幸せだね」
舞はちゃんと聞いているのかよく分からないが、笑顔で僕たちのやり取りを聞いていた。いずれ結婚を発表したときには、おそらく先生方のところにもレポーターがやってくるだろうが、この様子だったら大丈夫だろう。好意的なコメントをして下さればそれでいいのだ。・・・みなさんの反応からすると、敢えて念押しをする必要はないだろう・・・。
帰り道。
「ゴメンね、飲み過ぎたみたいで・・・」
隣にしなだれかかってくる舞を見られるなんて珍しい。これまでいろいろストレスもあったのだろう。
「いいんだよ、今夜くらいは。お疲れさま」
しばらくゆっくりするといいよ。