実家には時々帰るけれど、あまり居心地のいい場所ではない。もちろんそんな素振りは見せないけれど、父は仕事であまり家にいないし、妹は都内で一人暮らしをしている。年の離れた弟は僕になついているけれど、遊んであげられる時間にはなかなか帰れない。
そんな家族が今日は実家に集まった。とはいえやはり遅い時間になってしまったので、挨拶だけにとどめておくことになった。
「お兄ちゃんお帰り」
「ただいま。また大きくなったね。でもこんな時間まで起きていていいの?」
「今春休みだから大丈夫。だって、お兄ちゃんに会いたかったんだもん。ねえねえ、成績見てよ。すごく頑張ったんだから」
「そうか、それは楽しみだね。じゃあ、お兄ちゃんの話も聞いてくれる?」
すると彼は僕の後ろに立っていた彼女に気づいたようで、礼儀正しく、こんばんは、と声をかけた。
「そっか、お兄ちゃん結婚するんだね。・・・きれいな人」
よし、気に入ってくれたみたいだ。
今日は前もって、二人で母の墓参りに行ってきた。舞ならきっと、母も気に入ってくれるに違いない。僕は母とのことを今でもよく覚えている。思い出すのが辛い時期もあったが、今では母との生活を懐かしく思えるようになった。・・・僕も大人になったんだと思う。
挨拶はごく普通に済んだ。僕は男だし、結婚するからといって実家にはあまり影響がない。
「貴久、おめでとう。・・・お墓には行ってきたのか?」
「はい。行ってきました」
父は大きくため息をついた。
「そうか、お前のために何もしてやれなかった私が言っても説得力に欠けるかもしれないが、温かい家庭を築きなさい。仕事は忙しいだろうが、それこそ国民の模範となるような、幸せな家庭にしなさい」
はい、分かっています。でも今なら父の気持ちも分かる。仕事も大事だ。それに僕は、父の仕事のおかげで小さい頃にいろんな国に行くことができた。そして世界には様々な人がいることを知り、語学力を身につけることが出来、今の仕事に就くことができた。出来れば僕も、家族との時間を過ごしたかったけれど、その思いは自分の家族に向けたいと思う。舞を、そして僕たちの子どもを幸せにしてあげる責任が、僕にはある。
「お父さんのほうも、いつも気をつけてあげてください」
「ああ、分かっている。今は息子の話を聞くようにしているよ。お前みたいに、皇太子になりたいんだそうだ」
なるほどね、それで勉強を頑張っているのか。将来が楽しみだ。