4/1 (金) 22:00 前途多難?

新しい年度の始まり。

宮殿には新入宮者が一同に介し、僕は殿下の隣で迎える側として出席させていただいた。ここにいる人たちはまだ僕よりも年上の人ばかり。でもあと2年もすれば同い年の人も入ってくるわけだから、それまでに僕は出来るだけ多くのことを身につけておきたいと思う。・・・ただ、僕自身はいつ入宮したことになるのだろう?もちろん物理的には、幼稚園を卒園してから、ということになるのだけど、式には出席しなかった。王宮人としての自覚が出てきたのはいつだったかな?

そして夜には、王宮の高官だけで食事会が行われた。それにしても、殿下は舞さんを迎えられたからか、いつにも増して笑顔が優しい気がする。まずは、週明けから旅行に行かれて、舞さんにはこれからのお妃教育に備えていただくとのこと。

でも僕としては、殿下にもゆっくり休んでいただきたい。議会が解散して選挙が行われたことにより、殿下はとても忙しい日々を送られた。・・・僕は知っている。結城はいつも僕のことを気にかけるフリをしているが、まずは殿下の心配をしている。もちろんそれは当然のことだ。何しろ、我が国の皇太子だから。そして、殿下にとっても、結城はかけがえのない友達なのだ。

だから殿下が大変そうなときは、結城の様子を見ていれば分かる。残念ながら、殿下はポーカーフェイスがお上手で、疲れなどはあまりお見せにならない。でも僕は結城のことは大体分かる。・・・加藤などは、結城のポーカーフェイスぶりに舌を巻いているが、僕は結城と寝食を共にした仲だから分かる。

「沢渡くん、僕が旅に出ている間、しっかり頑張ってね。今年度は沢渡くんにもたくさん仕事をしてもらいたいと思っているから、よろしく」

「こちらこそ、殿下のご期待に沿えるように、日々精進いたします」

「だったら、これ以上このことで僕を困らせたりしないで」

あ・・・。殿下はこれ見よがしに片手を振りかざしていらっしゃる。・・・そう、その指には僕がいつも狙っているリングがはめられている。どうしてだか分からないけれど、そのリングの美しさにはついつい見惚れてしまう。よって小さい頃から何かにつけて「欲しい」と申し上げているのだけど、殿下は意地の悪い顔で、「ダメ」とおっしゃるだけだった。

「分かりました。殿下が飽きてしまわれるまで、何年でも待たせていただきます」

「それではまるで、沢渡くんが僕の死を願っているみたいだね」

殿下のそのお言葉に、談笑していたほかの高官方が一斉に静まり返る。

「いいえ、滅相もございません。殿下を不愉快にさせてしまうつもりは毛頭なく・・・」

「当たり前だよ。あったらますます困る」

殿下・・・。どうかお許しを・・・。

「冗談だって。もう10年以上ここにおさまっているから、今更外すと落ち着かないと思ってね。・・・リングなら恋人と買えばいいじゃないか」

ちょっと殿下・・・!ここには有紗さんもいらっしゃるんですから!・・・ご存知の上での仕返しですか?

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