殿下がいらっしゃらないということで緊張しているのは、加藤も同じようで。夜、僕を部屋に送り届けると、珍しくためいきをついた。
「申し訳ございません。私の仕事はまだ終わっておりませんのに」
「加藤も、側近としての評価が出るの?」
「はい、今は皇太子殿下にお仕えしているつもりです。至らないところはございませんでしょうか」
そうか。僕に対しても、殿下がお戻りになられたあとに、それまでの仕事についての評価が出る。こんな時に緊急事態が起こったら大変だ。だから、出来れば何事も起こりませんように・・・、と祈る毎日だ。
「大丈夫、加藤はよくやってくれているよ」
「いえ、そうではなく、どんどんおっしゃってください。沢渡さんは間もなく人の評価をする側になられるわけですから、今のうちから練習をされておいたほうがよろしいかと思われます」
そう言われてもね・・・、僕なんかについてくれているというだけでも、凄いことだよ。
「加藤のことは部下だなんて思っていないよ。強いて言うなら仲間かな?・・・のわりには僕のほうがお世話になりっぱなしだけどね」
「沢渡さん、それでは私のほうが困ります。もう少し次期皇太子としての自覚をお持ちください」
「でも、ホッと一息つかせてくれる時間があってもいいんじゃないの?」
「もっと忙しくおなりになったらそれもよろしいかと存じますが、今は・・・、私が叱咤激励するほうがよろしいみたいですね」
恐ろしいことを言わないでよ。
「僕は次期皇太子でいられることを誇りに思うし、日々努力しているつもりだけど、内心は早くなりたいわけじゃない。陛下や殿下という素晴らしい方々がいらっしゃるから、出来るだけ多くを学んでから務めを果たしたいと思っている」
「そのような生温いことをおっしゃるのは、この場限りにしておいてください。次期皇太子になられた時点で、陛下や殿下にもしものことが起きた場合にはすぐさま皇太子として即位することになるのですよ」
分かっているよ・・・。分かっているけど、そんなことを願うわけないじゃない。僕の大好きな方々を失くすなんて考えられない・・・。
「・・・沢渡さん?」
「はいはい、加藤に嫌われないように頑張るよ。・・・でも加藤も、まだそんな日が来てほしいとは思っていないよね?」
・・・今度は加藤が黙った。・・・そうだろう、今でも緊張しているくらいだからね。
「そういうことをおっしゃると・・・。今年度は、沢渡さんの身体を鍛え上げるというのも私の目標の一つですから、覚悟しておいてくださいね」
・・・やっぱり怖い。