「ねえ、宿題が全然終わらないんだけど、どうしたらいい?」
朝霧と来たら・・・。どうしたらいい?と聞かれても、やるしかないんじゃないのか?
「そう冷たいことを言わないで。ヴァイオリンを弾かせていただきますから」
しょうがないな。僕の宿題はすべて片付いている。その代わり、僕にはまだ仕事のための勉強が残っているから、邪魔はしないでよね。
朝霧はソファーに腰掛け、僕の問題集を自分の問題集の隣に置くと、いきなり写し始めた。
「ちょっと待った。丸ごと写すつもりじゃないよね」
言うと、テーブルから顔を上げて、笑顔を作った。
「失礼だね。そんな訳ないよ。“難”っていうマークがついている問題のところには手をつけないから」
って言っても、一体全体真っ白なものをそのまま持ってくるというのはどういうことだよ。せめて、一旦自力で解いた上で、分からないところだけを見るようにしろよ。しかも、設問も読まずにいきなり写す体勢に入るとは・・・、さすがに放ってはおけない。
「これが解けないのに、2年生の授業を受けるつもりなのか?高校の勉強は社会人には最低限必要なものだろ?加えて君は王宮人の一員なんだ。クリウスではいい成績をとって当たり前なんじゃないのか?」
いや、その・・・、と、しどろもどろになる朝霧。
「ゴメン、今回は見逃してほしい。レッスンが大変なんだよ」
「僕だって仕事が大変だよ。でも宿題はちゃんとやったよ。・・・朝霧、ヴァイオリンだけ弾ければいいってものじゃないだろう。年相応のことはきちんとしておけよ」
「そうだけど・・・、新しい曲に苦戦してて・・・、しかも先生の機嫌もあまりよくなくて・・・、とても勉強に集中できないんだよ。僕からヴァイオリンを取ったら何も残らなくなる」
・・・そんなことになっていたとは。いつも一緒に部活に行っていたのに気づかないなんて、僕のほうにも責任はあるかも。
「じゃあ今回だけだよ。僕も今忙しくて、とてもイチイチ教えてあげられるだけの余裕がないから」
「ありがとう・・・」
落ち込んだ彼を見るとかわいそうになってくる。
「ただし、殿下が戻られたら、勉強会を開くからな」