4/15 (金) 16:00 オーディション

集まった1年生たちはまず男女に分かれてくじ引きをし、ペアを作った。しかし女子のほうが多かったので、余った子たちは2年の先輩と一緒に演じることになった。

男女間の別れのシーン。昨日からいろいろとシミュレーションをしてみたのだけどどうもいい案が浮ばず、くじ引きでは後のほうになったこともあったので、他の人の演技を参考にすることにした。・・・ただし相手は、2年の先輩というだけでまだ分からない。

・・・それにしてもみんな上手。やっぱり中学のときからやっている人もいるみたいで本格的だった。だから途中からは自ら辞退する人まで出てきた・・・私は大丈夫かな?でも不思議と気持ちはだんだん落ち着いていった。大事なことはその人になりきることだって分かったから。

でも当初のペアがずれたりして、相手が沢渡先輩と決まってからは急に汗が出てきた。よりによって沢渡先輩!私はどうやって別れのシーンを作り上げればいいのだろう・・・。先輩は他の人ともペアを組むことになったのでその様子を見ていると、相手によってまるで違う人に見えてくるから不思議だ。時には高慢な人に見えたり、傷ついた人に見えたり、投げやりな人に見えたり・・・私は新入生歓迎会のことを思い出していた。あんな傷ついた瞳をさせてしまうのは申し訳ない。

「将来のことを考えて別れる、という感じにしてもいいでしょうか。できるだけ明るく言わせてください」

「分かった。二人はどのくらい付き合っていたのかな?」

「・・・幼なじみでいつの間にか付き合うようになった、というのはどうですか?」

「いいね、それ。だったら、できれば唐突に言ってくれない?そのほうが盛り上がると思うから」

・・・凄い。私は「明るく」って言っただけなのに、ストーリーが完成してしまった。唐突に、ね。

そして私たちは並んで舞台に上がった。それだけで、何だか先輩のことを前から知っていたような気になる。でも言わなきゃ。これが私たちのためなんだからって思って・・・。

「ん?どうした?」

立ち止まった私に、先輩が振り返って声をかけた。・・・横顔が夕日に照らされて眩しく見える。

「しばらく会わないほうがいいと思うのよね。私たち長く一緒にいすぎたのよ・・・」

ふと見上げると、先輩の瞳が凍りついたのが分かった。・・・ウソ、このままじゃいられない。先輩ごめんなさい。・・・私は怖くなって逃げた。

「待てよ」

ガシッ。いきなり手首を捕まれたので驚いて振り返る・・・先輩は私のことを責めるように、そして信じられないといった様子で私のことを見ていた。でも急に何かを悟ったように、目を緩めた。

「何年か経ったら、また会おうよ・・・」

つかんでいた指先の力が抜け、それを合図にするかのように、私は舞台袖に下がった。

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