4/16 (土) 19:00 考えてしまうのは・・・

あれからドキドキが止まらない。

「いいなぁ~、深雪は沢渡先輩と共演できて。・・・しかもホントに付き合ってる二人に見えた」

一番驚いたのは、あの瞬間すっかりその世界に入り込んでしまったこと。確かに緊張はしていたけど、臨機応変に対応できたと思う。・・・明るくサヨナラするつもりが、何故とってもシリアスになってしまったのかはよく分からないけど、あんな瞳で見つめられたら私のほうまで悲しくなってしまって、演技が終わってもしばらく涙が止まらなくなってしまった。

現実には、先輩と付き合うなんて、ましてや私から別れを告げるなんてあり得ないことだけど、あのときの私は本当に、別れたほうがいいと思ってはいるけど上手く伝えられない、そして彼を傷つけたことで自分を責める、女の子の気持ちを体感できていた。演技って面白い。

そして、手首をつかまれたあの感触がまだはっきりと残っている。長くて繊細な指。確かに沢渡先輩はそこにいて、私だけを見つめていた。

近くで見ると、モデルみたいにカッコイイ。兼古先輩はいかにも高校生的な感じがするけれど、沢渡先輩はかなり異色。白い肌に、女の子よりも綺麗なんじゃないの?と思うほど絹のように艶やかなストレートヘアー、そして切れ長の目。なんだか同じ人間とは思えないような美しさがある。・・・素敵。

「ゆうこちゃん、どうする?あんなカッコイイ人に、待てよ、なんて言われたら」

私の部屋には、ゆうこという名前のシーズーがいる。この家では彼女だけが私の味方。いつも私の側にいて、私の話を聞いてくれる。

「役じゃなかったら、絶対行きたくないよね。・・・だって、沢渡先輩って何処となく寂しげな感じがするんだもん。あんな素敵な人でも、何か辛いことがあるんだよ、きっと」

だからかな?沢渡先輩のことが気になるのは。いつの間にかそういうことには敏感になっている。いかにも幸せそうな人にはついていけない・・・幸せな話なんかされたらたまらない。

でも、所詮沢渡先輩は夢のまた夢の人。束の間だったけど、いい夢を見させてもらえた・・・だとしたら、クリウスに入学したことも少しはよかったのかもしれない。これからも、時々くらいは沢渡先輩を見かけることがあるだろうし。

あ、ちょっと待って。まだオーディションの結果が出ていない。

「大丈夫、深雪は絶対合格してるよ。深雪の演技のあと、審査員の先輩方が小声であれこれ話してたもん」

なんて若菜は言っていたけど、どうなることやら。単に私の演技が下手だって言ってただけかもしれないし・・・。

結果は月曜日の放課後。

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