結局、有紗さんは僕のことなんてどうでもいいのか?
テレビを見ていたら、有紗さんが来国中のVIPと食事に行かれる様子が映し出されていた・・・聞いていない。
「どうして怒っているのかしら?高校生相手に嫉妬なんてしないでほしい、と言ってきたのは希のほうだったわね」
「高校生の場合とは大違いですよ。特に有紗さんは陛下の娘であるわけですから、結婚も絡んでくるではありませんか」
「あら、私には日頃からお誘いの話はたくさんあるのよ。でもそれは仕事だからで、希には関係ないじゃないの」
「でも僕たちは付き合い始めて一年になるんですよ。なのに何も変わっていない・・・それは、有紗さんがそうあることを望まないからじゃないですか?」
へえ~、と有紗さんが僕に驚いた表情を向ける。
「希は私のことを愛してくれているのね。・・・でもそんな回りくどい言い方ではなく、直接的に伝えたらどうかしら?私にどうしてほしいの?」
それは・・・、そんな風に言われると言いにくいじゃないですか。でも僕は男だからきちんと伝えなければ・・・。
「今日の希は変よ。何を焦っているのよ」
思いもよらないことを言われて、頭の中が真っ白になる。
「もう、全然自覚してない・・・。希ってそうなのよ。何か私に後ろめたいことがあるときには態度がおかしくなる。自分のことを棚にあげて私に意見するのはやめてくれない?」
え?そんなつもりでは・・・。
待ってください、と言おうとして、急にあのことがフラッシュバックした。・・・僕の大切な彼女が行ってしまいそうになる。その横顔を見たらいても立ってもいられなくなって・・・、彼女の手首をつかんだ。どうしても行かせたくなかった。でもそれが彼女の意志ならば、尊重してあげないわけにはいかなかった。
ターボリフトは静かに閉まり、僕は伸ばしかけていた手を引っ込めた。・・・何だ、今のは。あれは単なる演技じゃないか、それよりも現実の彼女を引き止めなければならないのではないのか?この僕は。・・・一体何をやっている。
とりあえずピアノの前に腰を下ろす。・・・朝霧ではないが、ピアノを弾けば心情が分かるかもしれない。・・・有紗さんに後ろめたいことがあるって?・・・別にないよ、何も。
と言っているそばからミスタッチが続いた。違う、これは今の出来事に動揺したからで・・・。