4/18 (月) 18:00 感情の揺らぎ

オーディションの結果が発表され新生演劇部としての部活動を行った後、僕は兼古先輩に誘われて出かけることになった。

「なあ、今度出かけるときには髪を解いてきてくれよ。ついでに、部室の衣装も借りてみないか?」

まったくもう、こんな大女が何処にいるんですか。

「まあまあ、そう睨むなって。オーディションではお前の男っぷりを楽しませてもらったよ」

「え?何のことですか?」

「そうか、あれは無意識だったか・・・あの子を引き止めたのは」

なっ!・・・何を言い出すかと思ったら、あのことですか。またうっかりフラッシュバックしそうになったところをグッと抑える。

川端深雪さん。

演劇経験はないということだったが、全員一致で彼女を我が部に迎えることになった。確かにうまかった。僕は何人もの人を相手にしたのだけど、あのときが一番キツかった。しかも気づいたら腕までつかんでしまっていたし。

「これまでの演技でお前の本気は何度も見てきたけど、あんなに無防備に感情のまま動くお前を見たのは初めてだった。今回はそっちのほうが収穫だったかもしれないな」

「そんなんじゃないですよ。あの時は、あまりにも多くの人から別れを告げられて少し感傷的な気分になっていただけです」

「そう無理するなって。・・・いや、俺は安心したんだ。去年の一件以来輪をかけてガードが固くなっていたから、いつか爆発するんじゃないかとヒヤヒヤしていたんだよ。でも大丈夫だった。お前にもちゃんと感情があったんだな」

先輩・・・。僕のことをそんな風に見てくれていたんですね。

・・・ただ、確かに僕は人付き合いには慎重になったけど、だからと言って川端さんとの演技のときの自分が素の自分だったかどうかについては、よく思い出せない。単に一生懸命役を演じようと思っただけで・・・。

「あの、すみません。クリウスの兼古くんと沢渡くんですよね。雑誌Nice Boyの取材をしているんですけど、写真を撮らせてもらえませんか?」

はぁ?人が深刻に考えている時に。・・・実は、先輩と歩いていると、こういうことはよくある。でも名指しで来るとは珍しい。

「ほら、考えすぎるのはお前の悪い癖だ。気分転換に撮ってもらわないか?」

先輩は耳元で囁いてきたけれど、

「申し訳ありませんが、写真は好きではないのでお断りします」

精一杯にこやかな表情を作って、その場を後にした。

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