3年生は来週修学旅行に行く。その間、去年同様、1、2年はビデオドラマを撮影することになり打ち合わせを重ねているが、今年の1年生は粒が小さい感じがする。
1年生のリーダーは、経験者であるという石井。だけど彼は役者で、脚本を書く者がいない。よって名作か過去の作品から選んで演じることになったのだが・・・、2年生が口出し過ぎているのではないかと心配だ。
「沢渡くんどうしよう?1年生には任せておけないわよ。これは私たち2年生にとって、勉強の機会でもあるのよね」
村野さんも困り気味で、部活の後も2年生の間では話し合いが続いている。
「そう、僕たちの指導力が試されているんだよ。例えばコンペ形式にするっていうのはどうかな?2年生と1年生、それぞれがビデオドラマの原案を考えて、良さそうなものを選ぶとか、それらを統合するとか。1年に関してはまだチームワークが確立していないから、個人の案でもいいけどね」
・・・去年僕たちは、1年生だけで食事に行ったり昼休みも打ち合わせをしたりして、何とかしようと必死になった。でも今年の1年生には、それができるくらい強いリーダーシップを発揮する人がいない。・・・今この時間、何をやっているんだか。でも僕自身も去年の今頃は右も左も分からない状態だったのだから、しっかり教えてあげないと。
「それで沢渡くんは何をやらせたいの?」
「うん。考えてみたんだけど、古典の名作をやらせたらどうかな?このメンバーに独創性を求めるのは難しいだろう。その前に、名作をやってもらって全体のレベルを一気に引き上げたい」
「それ賛成。セットが作れないから、セリフがしっかりしている作品がいいわよね」
そしてみんなで作品をピックアップしていく。
「すると、主演は石井くんと・・・やっぱり川端さんかな?オーディションで一番うまかったし」
「それが妥当だよね」「賛成」との声が上がる。・・・僕もそう思う。
「じゃあ、沢渡くんには石井くんのフォローをお願いしてもいい?川端さんのほうは私が見るから」
了解。本来ならば上柳さんが指導してくれるのがいいのだけど、彼女はもういない。でも村野さんに任せておけば大丈夫だろう。彼女はとてもしっかりしていて頼もしい。
ふと部室の端を見ると、部長と兼古先輩がパソコンを見ながら楽しそうに何かを相談していた・・・。