部長のお母さまへの挨拶が終わると、僕はそのまま部長のお宅へ連れて行かれた。
「え~!次期皇太子!って言うか、入宮って、高校を卒業しないとできないんじゃないの?」
「普通はそうなんですけど、僕は実験的に幼稚園卒園と共に招宮されて教育を受けてきました。ただ僕には実社会での経験が乏しかったので、陛下にお願いして普通の高校に入学させていただいたのです」
「じゃあ、高校の授業なんて退屈なんじゃないのか?」
「いえ、僕には何もかもが新鮮で、とても楽しいですよ。それに唯一ゆっくりできる時間ですしね」
「ということは研修に忙しいの?」
「いえ、仕事もさせていただいています。今年度の予算案の作成にも携わらせていただきましたし、晩餐会にも出席させていただいています」
「ということは・・・、俺の親父にも会ったことあるわけ?」
「はい、何度かお目にかかってお話しさせていただいていますが、僕が何者なのかはご存じないみたいですよ。・・・息子の作品をご覧にならないのですか?」
「ウチの親父に言っても無駄だよ。そんなことに現を抜かしてって感じで、端から取り合う気なんてないんだ」
「そうなんですか。・・・去年の全国大会には、殿下だけでなく両陛下も見に来てくださったのに」
「え~!ということは、陛下も私たちのことをご存知なの?」
「はい、もちろんです。文化祭のDVDもご覧いただきましたし、今年のコンクールも楽しみにしてくださっていますよ」
「本当かよ。これはしっかりしたものを作らないと・・・。そうか、朝霧は楽士だって言ってたよな」
「はい、彼はヴァイオリンの楽士です。彼も特別に小学校卒業後に入宮して、僕の友人になってくれました。それをいいことに演劇にまで付き合わせてしまって、本当は申し訳ないんですけどね」
「これで話がすべてつながったな・・・。それはそうと、これまでに誰かに話したのか?」
「行きがかり上、望月先輩に。そして、上柳さんにも」
「そうなのか」
「でも僕は、学校にいる間はできるだけ普通の高校生でいたいのです。先輩方はこれまで僕の素性を探らず、ありのままの僕を受け止めてくれました。そのことには本当に感謝しています。そしてこれからもよろしくお願いします」