4/26 (火) 16:30 注文

今日中にしっかりリハーサルをしておかないと、明日明後日で一気に撮影を終わらせることが出来なくなるから、少々焦っている。それでも昨日のアドバイスの甲斐があったのか、今日はわりと大丈夫なレベルまでには持って来られるようになってきた。でも、二人の絡みのシーンが何とも言えずギクシャクしていて、目も当てられない。・・・またまたタイムアウト。

「このシーンは重要よ。初めて出逢った人に運命を感じてしまう、そのインパクトが強くないとその後の展開が生きてこなくなるでしょ」

「はい、それは分かります・・・けど、どの程度演じたらいいのかよく分からないんです。ビデオドラマだからあまり大袈裟過ぎるのもいけないかと思って」

「今日のあなたの演技を見ている限りでは、まだまだ足りないわ。じゃあ、度合いを変えてやってみてくれる?」

彼女にはまだ演じることに対して恥じらいがある。それは主に自信のなさからきているのだろう。確かに、演劇未経験者にいきなりこんなことをさせていることにも問題がないわけではないけれど、素質は十分にあると思う。現に今も、指示をすぐ理解して演じてくれている。

「いいわ、その感じよ。今の感覚を覚えておいてね。それが出来たら、今度は日ごとに好きという気持ちを募らせていって。・・・今は、役の相手である石井くんのことを本当に好きになるつもりでね」

すると彼女は、部屋の反対側にいる石井くんを見つめた。隣ではもれなく沢渡くんが、それこそ手取り足取り実際にお手本を見せたりして教えている。・・・あ、マズイ。川端さんの視線が沢渡くんのほうに注がれている気がしたのだ。

「川端さん。この作品の女の子は、彼に対してどんな気持ちを抱いていると思う?」

・・・ほら、その慌てようは、別のことを考えていたからでしょ。

「好きで好きでたまらないという感じですか?」

「もちろんそうなんだけど、憧れとは違うの。見ているだけ、じゃなくて、一緒にいたい、と思う、好きなのよ。今の感じでは、彼との間に精神的な距離感が見えるわ。だから、石井くんとも話し合って、二人だけの空間を作り上げてほしいの」

はい・・・、川端さんの顔が急に引き締まった。基本的にこの子は真面目なのね。少なくとも、やる気はしっかりあるみたい。難しい注文を敢えて出してみたのだけど、ついて来てくれるかしら?

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