先輩方が修学旅行に行っている間に、私たちはビデオドラマの撮影をしなければならない。猶予は一週間。1年生たちをうまくまとめられるかしら?先週の様子ではかなり心配なんだけど。
1年生たちが選んできたのは古典の名作で、出逢ってしまったものの、家の事情で引き裂かれてしまうカップルの話。私は主演を務める川端さんのサポート役にまわることになったのだけど、先行きは不透明。
とりあえず今日は台本を通して読んでもらったのだけど、すぐさま沢渡くんを捕まえて密談する羽目になってしまった。
「とりあえず、個人練習をしてからにしようか」
そして、2年生がそれぞれ1年生一人を担当することになった。
「どうしたのかしら?」
川端さんの横に私が座ると、彼女はじっと見ていた台本から目を上げた。
「すみません・・・慣れていなくて」
その横顔は今にも泣き出しそう。彼女がいくら初心者だからといっても、自覚はあるみたい。そう、この間のオーディションのときとは全然違って、ただの女の子になってしまっている。
「この間の感覚を思い出して。オーディションのときのあなたは本当に素晴らしかったわ」
「・・・すみません、実はよく覚えていないんです。・・・始まった途端に、吸い込まれるようにその世界に入ってしまって、気づいたら台詞が口から出ていたんです」
・・・まさか、相手が沢渡くんだったから、なんてことはないわよね。普通はみんな、沢渡くんに見つめられると取り乱してしまうのに。・・・そう思うと度胸が据わっているということになるのだろうけど。それにしても、このオーラのなさは何?
「川端さんには才能があるわ。それはみんなが認めているところだけど、まだそれを使いこなせていない。だからまずは役の人物になりきって。この子はどんな服を着ていて、どんな髪形で、どんな考え方、どんな行動をするのか、を考えてみて」
「はい・・・」
彼女は目を閉じて一生懸命想像している。
「そういう彼女なら、どんな風に言葉を発するかしら?」
そして、私は相手役の台詞を言う・・・。