編集の時に何度も観たはずなのに、川端さんの演技にはいつも引き込まれてしまう。僕たちの作品は、3年の先輩方に満足していただけたみたいだ。僕としては、今回の撮影に当たって演じる側ではなく指示をする側に回ったことが、新たに役に向き合うことが出来るいいきっかけになったと思う。あっという間だと思っていた1年の間にも、僕は先輩からたくさんのことを学んでいた、それを後輩たちに伝えていかなくては、という責任も感じられるようになった。…先輩になるって、こういうことなんだね。
その後、ビデオドラマについてひとしきり話し合った後で、
「みなさんに渡したいものがあります。本当はビデオドラマを観てから考えようと思ったのですが、修学旅行中に構想がまとまったので、一気に書き上げて完成させました。コンクールで上演する作品の台本です」
部長が台本をみんなに配った…どんな役かは一応聞いていたけれど、それにしても仕事が速い。…しっかり1年生もキャスティングされている。…川端さんは僕の妹役!反射的に彼女を探すと、配役のページで固まっていた。
「明日から早速台本の読み合わせをしたいので、各自読んできてください。それから沢渡くんと朝霧くんは少し残って」
もう一度川端さんを見ると、今度はページをしきりにめくって登場シーンの確認をしている様子。その横顔からは血の気が引いている。大丈夫かな?
「病人、怪我人の役作りは進んでる?」
部長は楽しみな様子で聞いてきた。
「病名が分かるともっと役に入り込めると思うのですが、そこまでの設定は考えてあるのですか?」
…おっと、朝霧が質問した。…彼なりにきちんと考えているんだね。
「いえ、小さい頃からずっと病気で、余命いくばくもない感じだったら何でもいいわ」
「じゃあ、ドクターに相談しに行こうか」
それがいいね、と朝霧が素直に頷くと、兼古先輩が、本当に王宮人なんだな~と感心したように言った。
「僕のほうは、目のほかにも怪我をしているんですか?」
「ピアノが弾けなくなると困るから、脚の骨折ということでどうかしら?」
なるほど、目に加えて脚も、で、ピアノを弾かなきゃ…は、大変だ。