5/6 (金) 22:00 生きることと死ぬこと

今日は朝霧と一緒にドクターの元に行き、不治の病についてのリサーチを行った。改めて見てみると、朝霧は細身で繊細なイメージだから病人役にはピッタリだと思う… なんて冗談で言ってみたら、実は僕もそう考えていたんだよ、と真顔で返されてしまった。

…そうそう、朝霧の怒りはやや収まったみたいだ。今度は全国大会で優勝しなければならないのだから、僕と川端さんが綿密に打ち合わせをするのはやむを得ないことだし、そもそも僕と有紗さんがどんな付き合いをしているかを朝霧が詳しくしているはずなどないのだから。…今は舞台のことを中心に考えていきたい。

医療室から部屋に場所を移して、今度は加藤の手ほどきのもと、僕のエスコート方法について朝霧と模索した。やっぱりこれから部活ではずっと目隠しをしていようと思うのだけど、そのとき助けてくれるのは朝霧しかいない。だから僕が倒れたりしないように、障害物などの指示の仕方をチェックしておく。

そして一旦休憩となった。加藤から教わって、朝霧が僕に飲み物を手渡してくれる。目が見えないという状況にも少し慣れてきた。いつもは見落としがないようにと視覚に神経を集中させているのに、役ではそれ以外のことを要求される。いつも頼りにしているものを手放すのは不安だけど、気分転換になる気もする。…体のバランス的にも良さそうだ。

「でも、本当に視力を失ってしまったら、絶望してしまうよ、きっと。王宮からは解雇されるだろうから、だったら僕は今まで何のために苦労をしてきたのだろうって思うよ」

役の彼は自殺しようと考える… 僕自身はそこまではしないとは思うけれど、きっと空っぽになってしまうだろう。となると、実家に帰ることになったりして?…でもずっと家にいるのは嫌だ、となるとやはり自殺の道を選ぶしかなくなるのか。

「僕は自殺はいけないと思う。例えば沢渡が自殺してしまったら… 本人はそれでいいかもしれないけれど、残される身としては辛くてたまらなくなるよ。目が見えなくたって出来ることはたくさんあると思う、それが沢渡なら尚更」

そうかな?迷惑をかけるだけのような気がしてならないのだけど…。

「でも逆に僕は、今病気で死ぬことになっても素直に受け止められるような気がする。コンクールで優勝していないことは残念だけど、今出来ることは精一杯やっているつもりだから」

…何やら朝霧のほうが大人の発言をしている。でも僕には、朝霧の死を素直に受け止めることなんて出来ないよ。

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