5/8 (日) 22:00 何故?

気持ちがぐちゃぐちゃになっている。…僕のほうにも非がある?僕はずっと、平凡でいいから、有紗さんと一緒の時間を過ごして一緒に感動できたらいいと思っていた。同じように少し心が寂しい人間同士、お互いの空白を埋め合っていければいいと思っていた。なのに、有紗さんの高慢な態度は変わらず、距離はある程度以上保たれたままだ。…でも有紗さんから僕のことが分からないと言われたことは、少なからずショックだった。僕の気持ちは何度となく伝えてきたはずなのに、伝わっていなかったとは…。

僕はピアノの前に座った。…でも、舞台で弾くことになっている曲を弾く気にはならない。なぜなら、それはとても明るく前向きな曲だから。今の僕はこの苦難を乗り越えようという気にはならない。陛下に知られたことも重荷でしかない …あのまま話さないでくれたほうがよかった。

“響殿下がお見えになります”

そんな時、急にコンピューターのアナウンスが流れた。ウソ、殿下にお聞かせできる曲は、と。

「こんばんは。よかったら一曲聴かせて」

ピアノの前に座っている僕を見つけると、いつものようにおっしゃりソファーに腰を下ろされたのだったが、殿下に聴いていただけるような曲は思いつかなかった。すみません、あまりにも気持ちが乱れすぎていて…。すると殿下は、向かいに座るようにとおっしゃった。

「沢渡くん、一生懸命なのはいいけど、少し入り込みすぎている気がするよ。もうすぐ僕はまた出張で国を空けることになるから、君のことが心配だ」

申し訳ありません。確かに最近の僕は、役作りのことがまず頭にあるのと、有紗さんのことが常に引っかかっているので、あまり仕事について考えられていないかもしれません。…殿下だって舞さんとの時間を一緒に過ごされたいだろうに、わざわざ僕の部屋まで来てくださるなんて。でも僕は、どうしたらいいのかよく分からないのです。

「僕には有紗さんの気持ちがよく分かりません。しかも、顔を合わせるたびに、余計に分からなくなるのです。…何が一体どうなっているのか、さっぱり分からないのです」

殿下は注意深く僕の様子を見ていらした。

「沢渡くんは、有紗さんにどうしてもらいたいの?」

「どう…って、僕のことを認めてくれさえすればそれでいいのです。今は有紗さんのことを尊敬できません。以前はそんなことなかったのに…」

「どうしてそうなってしまったのかな?」

殿下はあくまでも中立の立場で穏やかに聞いてこられる。だから、殿下にはお話しできそうな気がした。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です