5/9 (月) 23:00 僕たちが…

部屋に帰ったときに彼女が迎えてくれる、それがこんなにも幸せなことだとは思ってもみなかった。

「お帰りなさい」

「ただいま」

そして竹内が諸項目を手短にまとめて言い残し、退がっていく。

舞のお妃教育はとても順調で、早くも来月辺り婚約発表をしようかという話が出ている。もともといろいろな習い事をしていた上に、いろいろなことに興味を持ち試してみようという好奇心が旺盛、加えて吸収力にも優れているのだから、指導に当ってくださっている方々も嬉しい悲鳴を上げている。

「舞は僕にはもったいないくらいだよ。君と出逢えたことは、僕の人生の中で一番の出来事だ」

思わず彼女を抱きしめた僕に、

「貴くんが素直にそんなことを言うなんて怖いわ。飲んでいるの?」

などと言う。失礼な。

「だって、まだ一ヶ月しか経っていないけれど、王宮は本音と建前が違う世界だということを、痛いほど思い知らされたわ。貴くんだって、仕事で散々トラブルが続いても私にそれを見せようとしないし」

「それは違うよ。トラブルがあって行き詰ったときには、一旦そこから離れることが大事だからだよ。それに仕事は仕事であって、プライベートにまで引きずりたくないから。その切り替えのきっかけを舞が与えてくれていることには感謝しているよ」

「逆に言うと、それは私だけが蚊帳の外にいるということよ」

「違うって。そういう話は執務室ですることで、この部屋ですることじゃないと思うんだ。舞が積極的に公務に参加したいと言ってくれているのはとても嬉しいことだから、徐々に同行してもらおうと思っている。だけど、プライベートの時間を大事にしておかないと、仕事にも影響が出て来るんだ。これは、僕がこれまでの経験から学んだことだよ。舞のほうこそ、気を張り詰めすぎていないか?今だけはお妃教育のことは忘れて、一緒にいられる時間を楽しもう」

分かったわ、ごめんなさい。…そして彼女も僕に身を預ける。宮殿に来てもらっているのに、僕の仕事が忙しいおかげであまり一緒に過ごせていない。だから、一緒にいられるときには、楽しく穏やかな時間を過ごしたいんだ。

この宮殿では揉め事や厄介事が絶えない。だから、僕たちがいいアドバイスをしてあげられるように余裕を持たないと…。

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