放課後、部活の勉強会に、珍しく沢渡がやってきた。
「先輩の誕生日とあっては、参加しないわけにはいかないじゃないですか」
なんて笑って、去年同様大量のバラの花束をくれたのだけど、どうも様子がおかしい。やむを得ず、沢渡を別室に誘い出して、何があったのかを聞いてみることになる。
「お前らも無茶するな」
村野さんも勉強会に参加しているが、彼女はいつもと変わらない様子だ。
「村野さんは全然構わないと今も言ってくれているんですけど、そういうわけには行きませんよね」
「当たり前だろ。・・・って言うか、何でお前は、女の子のことになるとそんなにワタワタするわけ?」
「それは・・・、誰かに好きになってもらうことなんてこれまでほとんどなかったから、とても嬉しいのに邪険にしなきゃいけないということが、心苦しいというか何と言うか・・・」
そうか、優しいんだな。でも、優しさが仇になることもあるんじゃないかな?なんて思っていたら、オフクロからメールが来た。
“今日ならお父さんも帰って来られるそうだから、誕生会を開くわよ。あなたも早く帰ってきなさい”
これはピンチ・・・でも、目の前には沢渡。
「なあ、今夜ウチで夕食を食べないか?」
「え?でも先輩の誕生会でしょ?僕なんかがお邪魔する理由がありません」
「理由はある。俺が招きたいと言っているんだから、それ以上のことはない。スケジュールさえ空いていれば、頼む、来てくれないか?その代わり、お前にも協力するから」
沢渡は少し考えて携帯電話を取り出した・・・何かをキャンセルしてくれたらしい。恩に着るよ。
そして、家に帰ったときの親父の驚いた顔は見物だった。
「初めまして、沢渡と申します。部活動ではいつも先輩のお世話になっております」
沢渡はしれっと俺の後輩を演じきり、俺も俺で、次期皇太子だなんてことは知らない振りをして夕食を囲んだ。・・・一方の親父は、食事どころではなく額の汗を拭っては沢渡のご機嫌を取り、その様子を見ていたオフクロと弟は、ワケが分からないといった様子でポカーンとしているだけ。面白くてしょうがない。
「いい記念になったよ、沢渡、ありがとうな」
「いいえこちらこそ。先輩にも弱点があったんですね、覚えておきます」
それは違うだろ、おい。でも、沢渡も楽しそうだったからよかった。
俺も待っている人の元へ行かないと。