5/16 (月) 23:30 ピアノプレイヤー

どうしてこうもうまくいかないことばかりなのか…僕の力不足のせいで、みんなに迷惑をかけてしまっている。

そんな思いをピアノにぶつける。重厚感のある音に僕の不安や焦りを挟み込み、押しつぶしてしまいたいと思う。僕はちっとも成長していない。これは僕が僕自身で解決しなければならない問題だ。今考えなければならないことは、気持ちを落ち着かせて晩餐会に出席すること。殿下にご迷惑をかけることだけはあってはならない。部活は試験が終わるまでは休みだから、まず目前にあることから順番に片づけていこう。

殿下とは明日最後の打ち合わせがある。そのときまでには、殿下が今なさっている仕事と来賓の方々について把握しておかなければならない。暗記には自信があるほうだけど、集中力を保っておかないと入るものも入らなくなる。だからこそ、ピアノで気持ちを落ち着かせなくては。

あ…、指がもつれる。最近あまり弾いていなかったからかな。ピアノまでダメになっているなんて重症だ。結局今の僕は、何もかも中途半端になってしまっているということか。

このままではいけない。一旦手を止め、もう一度第3楽章の頭から弾く。1音1音を正確に、投げやりにならずに、先走りせずに。メロディーに気持ちを重ねるようにして…。

この曲をマスターするのにはとても苦労した。子どもの僕には、こんな重い音を表現することは難しすぎた。なのに先生は僕に弾かせたがり、それに渋々付き合う羽目になった。しかし、練習していくうちに僕にもだんだん思慮深さが身についてきた。この曲と向き合うことはすなわち僕自身とも、そして周りの出来事とも深く向き合うことにつながった。重く、激しく、まるで狂気に満ちたかのようなメロディー、…それは月がなせる業か?でも今の僕には、作曲者の意図が分かるような気がした。それどころか、僕の気持ちを代弁してくれているかのようにも感じられる。

ペダルから足を離すと、ためいきが漏れた。それは、なかなかの充実感の表れだった。何とか形にはなったから、もう一度第1楽章から弾き直す。もう、無理やり気持ちを押し込めたりしなくてもいい、曲の世界観を表現するアーティストに徹することにする。あまり主観的になりすぎてはいけない、一歩下がったところから見ることができるだけの余裕が必要だ。

今度はさっきよりもまたよくなった。それは気持ちが落ち着いてきたことの表れである。これなら大丈夫。いつも誰かに頼ってなどいられない…そう以前は何もかも一人で解決しようとしていたじゃないか。ピアノは僕を裏切らない。

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