「響くん、少しいいかね。私的なことなのだけど・・・」
と陛下がいきなりおっしゃったので、僕はドキリとした。・・・それはやはり、有紗さんと沢渡くんのことだった。でも今二人の仲が不穏なムードになっていることは、とても申し上げられなかった。陛下はお忙しいから、二人の微妙な関係に気づく余裕はなさそうなご様子。
普段の陛下はとても些細な変化にも気づかれて対応なさるタイプである。なのにご自分の娘に対してはどうにもこうにも疎くていらっしゃるので、これまでにも何度か申し上げたいことはあったのだけど、それは未だに叶えられていない。とにかく今の僕は、あまり応援できないと申し上げるほかなかった。・・・どうやら、沢渡くんの気持ちが傾いてきているようだから。
そんな折も折、クリウスでトラブルが起きたと聞いた。部活の子が、沢渡くんのせいで嫌がらせをされたのだという。
「申し訳ありません。このところ学校の雰囲気があまりにもおかしいので、彼女と相談して変えていこうということになったのですが・・・」
幸い彼女に怪我はなかったそうだが、やることが危険すぎる。
「女の子を危ない目に遭わせるなんてもってのほかだ。もっと平和的な解決策を考えなさい。相手が陰湿な行動に出るのは、君が沈黙しているからだ。もっとオープンにみんなと会話を持つようにしたらどうかな?確かにみんなに優しくすることは難しいし、大変なことだけど、君のために、特に女の子の友達が傷つくようなことがあってもいいのか?前のことは活かせていないのかい?」
申し訳ありません・・・と、沢渡くんは固くなって俯いている。学校の状況は加藤から聞いているが、沢渡くんが最近冴えないのは、やはり有紗さんとのことが引っかかっているからなのだろう。加えてコンクールの準備も大変だと聞いているし、大丈夫かな?来週は晩餐会に出てもらう予定なのに。
「黙っていては分からないよ。どうするつもりなんだい?」
「・・・有紗さんとは、しばらく会わないでおこうと思います。今のままでは何のために付き合っているのか分かりませんから」
「そうか、それで全て解決するのかな?」
「はい、解決させてみせます」
あまり傍観者でいると、僕のほうまで危うくなる・・・かも。