結城から連絡があり、手術が無事に終わったとのことだった。
「沢渡くんは見えるようになったの?」
“客観的には機能しているということだが、沢渡が目覚めるまではまだ安心できない。それに、休んでいた回路が正常に戻るまでには、しばらく時間がかかるかもしれないとのことだ。でも、手術としては成功したそうだよ”
ああ、よかった。後は目覚めるのを待つばかりだね。
そして僕は仕事のわずかの合間を縫って、沢渡くんの自宅を訪れていた。彼は目が見えなくなったことを知らせたがらなかった。何故なのかは深く聞かなかったが、学校を長く休むことになった以上ご家族にお知らせしないわけにはいかなくなり、連絡はさせていただいた。
「希は大丈夫なのでしょうか?」
特に祥子さんはまたしても大いに取り乱してしまわれ、僕は定期的に電話をかけさせていただくことになった。
「はい、手術は成功したそうです。完全に回復するまでには時間がかかるかもしれないとのことですが、4、5日の内には帰国できるそうですよ」
そうですか、ありがとうございます、と祥子さんはハンカチで目を覆われた。
「申し訳ありませんでした、すぐにご連絡を差し上げることができず、またお見舞いにも来ていただけなくて」
「希はどんな様子でしたか?」
「気丈に振る舞っていましたよ。丁度今、部活で失明する男を演じているので、この経験を活かすのだと、とても前向きにチャレンジしようとしていました。ですが一方で、振り返らないようにしていたのではないかと思います。ご家族にお会いしたら緊張の糸が途切れてしまうことを恐れたのではないでしょうか。彼は私を心配させまいと平静を装っていました。そんな彼に更なる負担はかけたくないと思い、彼に実家で休むようにと促すことはしませんでした」
沢渡くんは隠してもしょうがないと部活には参加したのに、家族には会いたくないと言い張った。おそらくどんな顔をして会えばいいのか分からなかったのだろうとは思うが、一方で一旦実家に帰ってしまうと二度と宮殿には戻ってこられないような気がしたからではないだろうか。沢渡くんには政官としての自覚がしっかりと芽生えている。折角政官としての生き方を自分のものにできたのに、水を差すようなことはしない方がいいとも思う。
そのときまた結城から連絡があり、無事に見えているとの嬉しい報告があった。
「希に、よかったね、と伝えてください」
電話を祥子さんに渡したものの、沢渡くんには替わらなくていいとおっしゃった。僕たちが代わりにお互いをそれぞれフォローしてあげなければいけないんだよね。