そして他にも連絡しなければならない人たちがいる。
「もしもし、夜遅くにすみません。響です」
“で、殿下ですか?・・・こんばんは”
「こんばんは。今いいかな?」
沢渡くんがお世話になっているクリウスの面々にもいい知らせを届けておかないと、と思って、兼古くんに電話をかけた。
“わざわざありがとうございました。コンクールまであと二週間となっているので、少々焦り始めてきたところです”
「まだ帰国するまでには少し日にちがあるけど、役作りだけはしっかりしておくようにと伝えておくね。・・・ところで、学校はどんな様子かな?」
朝霧くんからはいろいろと聞いているのだけど、違った視点からの情報も欲しいと思って。
“同情的な意見が多いです。特に女の子たちは早く学校に来ることを願っているようですけど、学校には誰も沢渡の様子を知る人がいないので探りようもなく、ただ心配しているだけみたいです。朝霧にしても、沢渡が手術のために外国に行ったこと以上は知らないみたいですし。・・・知らないフリじゃないですよね?”
「朝霧くんももちろん心配しているけど、役作りに加えて、夏に出るヴァイオリンのコンクールのための準備もあって忙しいんだよ」
やむを得ず、結城が担任の先生に事情と病状を伝え、病状についてはクラスメートに話をしてもらった。余談だが、担任の先生は若いせいか事の重大性がよく飲み込めていないようだ、と結城が面白がっていたのが印象的だった。鈍さが功を奏すこともあるということか・・・。
“あの・・・、陛下と殿下が昨年のコンクールを見に来てくださったというのは本当ですか?”
「ああ、本当だよ。今年もとりあえず地区予選は見に行けることになったので、是非ともいい成績を収めてね。そして清水さんにもよろしく」
“あ・・・、隣にいますので、替わりますね”
・・・そういうことか。週末の夜だからね。
“こんばんは。わざわざお電話をありがとうございました”
「大事なときに沢渡くんが迷惑をかけて申し訳ない。帰国したらビシビシ鍛えてやってください」
“いえ、こちらこそ。殿下は芸術に造詣が深いと伺っておりますので、地区予選でのご感想などを聞かせていただけると幸いです”
しっかりしているね、清水さんは。それからもう一度兼古くんに替わってもらう。
「水曜日にクリウスで昼食会があるので、出席してください。少々話がありますので」
クリウスは僕たちの母校だから、きちんと挨拶をしておかないと。