6/7 (火) 22:00 目覚め

予定が狂う一日だ。天候不順で交通機関に遅延が出るやら、話し合いがまとまらないやら、頼んでいたものが届かないやら・・・。それでも何とか仕事を片付けて宮殿へ戻り、早足でターボリフトに乗り込み、医療室へ向かう。早く・・・早く・・・、待っている時間がまどろっこしい。

「お疲れさまです、殿下」

ドアが開き医療室へと足を踏み入れると、沢渡くんが立ち上がって僕に会釈をした。・・・でもそれは前にもあったことだ。まだ信じられない。

「沢渡くん、本当に見えているの?・・・これは何本?」

指を折ってみせると、彼は目を細めて笑った。

「もう殿下は・・・、三本ですよ、三本。・・・今回のことでは殿下に大変お世話になり、本当にありがとうございました」

そして深々と頭を下げる。・・・いいんだよ、別に。僕がしたことなんてほんの些細なことだ。・・・とはいえ、待て。感情的になりすぎてしまうと僕の立場も危うくなるので、彼の肩を叩く程度にとどめてお互い腰を下ろす。

彼の視力は、戻っただけでなく若干以前よりも見えるようになったほどだということで、コンタクトの度数を変えようかと相談していたとのこと。嬉しい誤算だね。

「学校へは明日から行きますし、仕事へも早く復帰できればと考えています」

「そうか、頼もしいね。そうそう、明日は舞と一緒にクリウスの理事長に挨拶に行くことになっているから、君も同席してくれないかな?君のことも、学校のみなさんに改めてお願いしておきたいから」

「はい、それは喜んで。・・・あ、兼古先輩とも話をしてくださったのですね、ありがとうございます」

「それは、君があまりにも連絡を取らなすぎているように感じられたから」

・・・申し訳ありません、と沢渡くんは小さくなってうつむいた。

「でもそれは僕が勝手にしたことだから、もし迷惑だったらそう言ってほしい」

「迷惑だなんて・・・。確かにこのところの僕は殻に閉じこもっていたところがあるように思います。文字通り、周りが見えなかったのです。見えないのだからどうしようもないと思っていました。それで一旦気にしないようにし始めたら、それがだんだん自然のことのように思えてしまって・・・ですが、今日帰ってきて携帯の履歴を見たときに目が覚めました。目に見えたり、直接触れられたりするものだけが全てではないのだと。たくさんの人が僕のことを心配してくれていたのにそれに応えないなんて、ひどいことをしたものだ、と」

ひどくなんかない、仕方がなかったんだよ。・・・駄目だ、また抱きしめてあげたくなってきた。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です