「本日はお忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます。本日、私響貴久は、こちらの杉浦舞さんと、両陛下お立ち会いのもと、婚約の儀を執り行いましたことをご報告させていただきます。なお結婚の儀は10月15日の予定です。国民の皆様には私ども二人を温かく見守ってくださいますよう、よろしくお願いいたします」 カメラのフラッシュが一斉に光り、辺りが見えなくなる。彼女は大丈夫だろうか?ふと隣を見ると、一生懸命呼吸を整えて気持ちを落ち着かせようとしているのが分かる。
「舞さんとの出逢いと、人柄を教えていただけますか?」
「はい、彼女は私の高校時代の同級生で、当時から付き合っておりました。その後私は入宮し、彼女は大学を経て小学校で教師を務めていたため、なかなか会えずにいたのですが、彼女は私のことをずっと信じて待っていてくれました。お互い、二人でいるとリラックスできるというか、波長が合うというか・・・彼女は忙しい毎日の中に安らぎを与えてくれる人です」
一緒にいるのが当たり前というのは少し言い過ぎかな?と思ってやめておいた。
「舞さんは殿下のどこに惹かれましたか?」
「殿下は高校時代からとても社交的で楽しく、いつもつまらないことを言って私を笑わせようとしていました。最初は少し変わった人だと思っていたのですが、バンドでボーカルを務めたり、生徒会長としてみんなをまとめたりする様子がとても頼もしいと感じるようになりました。ですが、先ほど殿下がおっしゃったように二人でいると楽なものですから、いつの間にか一緒にいるのが当たり前になったというのが正直なところです」
あ・・・、舞が言った。やっぱりお互い思っていることは同じなんだね。
「ご結婚後は舞さんも公務に出られるのでしょうか?」
「はい、お妃教育を四月から受けてもらっていまして、その成果がある程度出てきた今、結婚を発表させていただくことになりました。彼女は福祉や教育、ボランティア活動に興味があるということなので、後々には一人で公務に出てもらうことも考えています」
「今回結婚に踏み切られた一番の理由は何でしょうか?」
「たまたまタイミングがよかったということでしょうね。私としてもそろそろかと思っておりました時に、彼女の仕事が一段落着くということでしたので、このタイミングを逃すわけにはいかないと思いました」
「殿下はあまりプライベートをお見せになりませんが、舞さん、普段の殿下はどんなお方ですか?」
「いつも忙しそうで、プライベートな時間があまり持てないようなのですが、散歩するのがお好きですね。宮殿の中や街を歩いて、気分をリフレッシュしていらっしゃるみたいです。他には料理が上手で、一緒に作ったり、また作っていただいたりしています。しかし、片付けるのはあまり得意ではないご様子です」
コラ!それを言うなって。・・・チラリと隣を見るとカメラのフラッシュが一斉に光ったので、それ以上はやめておいた。
「お二人でケンカをなさることはありますか?もしおありならその原因もお聞かせください」
それは言いたくないが・・・、
「喧嘩というほど大袈裟なものはありませんが、彼女を怒らせたことは多々あります。原因は全て私にあります。彼女への気遣いが足りないようで・・・、それはつまり私が彼女の好意に甘えているからですね」
「いえ、そんなことはありません。怒っているわけではなくて意見しているだけです。殿下は私に限らず他人の意見は真摯に受け止めてくださいますから、気づいたことは申し上げるようにしています」
「ごめんね、ありがとう」
僕が彼女に言うと、記者のみなさんが笑ってくれた。
でも、そうだよね・・・。端から仕事を優先させると宣告し、同棲してからもマイペースで生活し続けている僕は、彼女にとってよき夫になれるのだろうか?母が早く亡くなっていることもあり、温かい家庭への憧れがある。それなのにいざ自分が家族を作る番になった時にあまり家にいない、妻のことを顧みない夫でいていいはずがない・・・これでは父と同じになってしまうではないか。
会見の後いろんな仕事に忙殺され、舞とゆっくり話す時間がなかなか持てなかった。話しかけようとしてもすぐに誰かが話しかけてくる。このままではいけない、僕はもっと努力をしなければならないのだ。彼女に甘えているだけではいけない、感謝の気持ちをきちんと示して、彼女を幸せにしてあげなければならない・・・僕にはその義務がある。
「舞、ごめん。僕が悪かったよ」
部屋に帰るとすぐに、僕は彼女と向き合った。
「いつもはぐらかしてごめん。僕は君に本当の気持ちをうまく伝えられていなかった。僕がこんな態度だから、君に返す手立てがなくなるんだよね。・・・君にはいつも感謝している、君なしの生活なんて考えられない・・・これからも一緒に生きていこう。出来の悪い男かもしれないけれど、僕なりに精一杯君のことを守るよ、愛しているんだ・・・舞」
貴くん、と今回は彼女もおとなしく僕の胸に収まった。記者会見は失敗だった、彼女に守ってもらう、なんてことなどあってはならないのだ・・・。
「私にだけ、特別な愛を分けてね」
うん、これからはたくさんたくさん分けてあげるよ。