6/17 (金) 18:30 見て見ぬフリ

明日はいよいよ地区予選。一時はどうなることかと心配したけど、なかなかいい感じにまとまったのではないかと思う。

沢渡くんには大分笑顔が戻ってきた。でもお昼ごはんを一緒に食べないかと誘っても、丁重に断られてしまった。

「そうすると、また村野さんに迷惑をかけてしまうから」

その気持ちは嬉しいけれど、休んでいた間の話も聞いてみたかった・・・今更思い出したくないのかもしれないけれど。

そして部活の時間、今日は軽く合わせただけで、後は明日に向けてセットや小道具をトラックに積み込む作業が中心となった。

「とてもいいものに仕上がっているという自信が、私にはあります。だから明日は存分に舞台で披露することにしましょう。それでは今日はお疲れさまでした」

部長が締めくくると、自然と拍手が沸き起こった。兼古先輩にも沢渡くんにも朝霧くんにも、もう不安は見られない。ただ、深雪ちゃんには少し・・・と思っていたら、沢渡くんがすかさず声をかける様子が目に入ってきた。・・・でも、私には何だか、沢渡くんのほうが深雪ちゃんから元気をもらっていたように見えた。

普通なら先輩が後輩を指導したり安心させたりするものなのに、今回は・・・事情が事情だからしょうがないかもしれないのだけど、劇中だけでなく普段の時でも、沢渡くんが深雪ちゃんと話をすると、その後の沢渡くんの調子が良くなっていた。深雪ちゃんって頼りなさげなのに、あの沢渡くんのことを助けている。・・・沢渡くんをそんな風に助けてあげられる人は、クリウスでは他にいない。

 

「なんか、ますますいい感じになってきたな」

兼古先輩がこっそり部長に囁いた。

「もう、そういうこと言わないの。今は明日の地区予選でいいものを見せられればそれでいいから」

そう、みんな思うことは同じだと思う。みんなも沢渡くんがイライラしていたのはよく知っている。でもどう接したらいいのか分からなかった。・・・沢渡くんはいつも落ち着いていて、思慮深くて、完璧を求める人だった。なのにそんな人が取り乱しているなんて余程のこと。私たちごときが何を言っても焼け石に水だった。その嫌な雰囲気を、深雪ちゃんは変えてくれている。だから誰も二人を止めたりしない・・・我が部では。今後どうなるのかは予想がつかないけど、地雷を踏まないように見て見ぬフリをしておくのが賢明だと思う。

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