優勝できてよかった、けど、まだ次がある。今年は是非とも全国大会で優勝を!部の打ち上げは次の戦いへの出陣式のようになり、一瞬緩んだ気も、たちまち引き締まった。僕にはこの役は正直重くて、まだ1ヶ月もこのままかと思うと精神的に参ってしまいそうになるけれど、それよりも今は、全国大会で更なる演技を見せたいという思いが強くなっている。
「沢渡くん、今日は一年分くらい泣いた気がするよ。見事な演技だった、と思いたいけど、演技ではないところもあったのかな?」
宮殿の殿下の部屋では打ち上げ第二弾が行われていて、殿下からはたくさんの感想や質問をいただいた。もちろん舞台上では観客からの見え方を気にしなければならないので、動きは全て演技だ。でも感情は自然に任せている。目が見えないことに気づいた日のことを思い出すと、瞬く間に泣ける自信が今でもある。幕が開き僕がベッドで目覚めるシーンになると、そのことがフラッシュバックして、もうその後は見えていなかった頃の心境をなぞるだけ。もう、僕の意志ではどうすることもできないくらい、深く刻み込まれてしまっているみたいだ。
でも殿下の前ではそんなことは申し上げられない。僕は演劇部の部員なのだから、役と自分は切り離せて当然だ。殿下や舞さんが泣いてくださったのも、作品を見てというよりも、役の中に僕を見たからだと思う・・・僕はまだまだだ。
「沢渡、そろそろ帰ろうか?」
そんな僕に気づいたのか、結城が声をかけてくれた。僕は僕なりに、現時点では精一杯の演技を見せることができたから、満足感はある。でもさっきから妙に胸が詰まってしまってきて、息苦しい。
「気を張り詰めすぎて、疲れているということを脳が認識していないんだよ」
結城が部屋まで送ってくれる。
「どうだった?僕の演技は?」
会場に来れなかった結城は、ビデオで見てくれた。
「あまりにも痛すぎて直視できなくなりそうだったけど、お前が全身全霊をかけて演じているのだから、目を背けてはいけないと思って、しっかり見届けたよ。・・・いい演技だった、よくやったよ」
そう?ありがとう。
「早く風呂に入ってリラックスしてこい。そうだ、たまには昼間にドライブに行こう。朝、迎えに・・・」
・・・息が・・・くるしい。
「沢渡、落ち着け!ゆっくり息をするんだ。ゆっくりだ、いいか、ゆっくり。ちょっと待ってろ」
何これ・・・、苦しい・・・、怖い・・・、もう一人にはなりたくない。