昨夜、沢渡先輩から電話がかかってきた。
“ゴメンね、僕のせいで嫌な思いをさせたみたいで”
昨日は結局、村野先輩たちと一緒にお昼を食べさせていただいて、その時に、沢渡先輩に近づくと嫌がらせをする人たちがいることを聞いた。
「凄くビックリしました。別に役を演じているだけなのに、いけないんですか?」
“・・・多分、君の演技があまりに上手だったから、嫉妬したんだよ。でも僕が出て行くと余計におかしくなってしまうから、部長に言われたとおりにしてくれる?”
それで沢渡先輩は部活の時に何も言わなかったんだ。代わりに部長と兼古先輩に呼ばれて、昼食は同じ学食でとるようにと言われた。そういう嫌がらせをする人たちも、生徒会長である兼古先輩の目が届く範囲では何もしないから、と。
“僕自身、本当に申し訳ないと思っている。僕のせいなのに直接守ってあげることができなくて。いろいろやってみたんだけど、結局はほとぼりが冷めるまで放っておくしかないんだよ。その代わりに、こうして電話をかけてもいいかな?少しでも嫌な思いをしたら、すぐに言ってほしい。できる限りなんとかするから”
「いえ、そこまでしていただかなくても大丈夫です。私なんかに嫉妬したところでどうしようもないですし、単なる部活の後輩ですし」
“でも、僕の妹役は君しか考えられないよ。君が妹に息を吹き込んでくれるからこそ、僕は自然に兄として演じることができる。無理することなく、役に入り込むことができる”
・・・先輩。
“だから、僕のことを嫌いにならないで。学校では冷たい態度をとるかもしれないけれど、それは本心からやることじゃないから。そのたびに謝らせてほしい”
「そんな、嫌いになんてなりませんよ。先輩のことは尊敬しています」
“今そういう役をやっているからじゃなくて?”
違いますよ。・・・先輩、どうしてそんなに弱気なんですか?いつでもカッコイイ人なのに。
「あの、私なんかのことをそんなに気にしないでください。大丈夫ですから」
気にし足りないと思っているくらいなのに、ありがとう、と先輩は言って電話は切れた。
今日のお昼は、学食に向かっていたら、自然な感じで部長たちが数メートル後からついてきてくださったので大丈夫だった。兄妹役を演じるだけでこんなことになるなんて、クリウスは変なところだ。当の沢渡先輩も、言葉通り、部活の時素っ気なかったし。