「え~!それで毎晩電話をかけてきてくれるというわけ!」
ちょっと、声が大きいよ。・・・1年生の間では羨ましがっている人が多いみたいだけど、2年生の間では排除しようとする人たちがたくさんいるので、教室でないとこんな話はできない。それにしても、小声じゃないとダメだけど。
「そうなの。でも何だか申し訳なくて」
「それは、先輩が深雪のことを気にかけてくれているってことでしょ?いいなぁ~」
確かに、妹役は君しか考えられない、と言われた時はドキドキした。
「でも、学校では、部活の時でも役以外の話は全くしないし、まるで別人みたい。だから、私に電話することも何とも思ってないに違いないよ。私なんかのためにそこまでしてくれるんだったら、誰にだってそんなことしそうだし」
・・・どうも、沢渡先輩のことがよく分からない。昨日の電話ではとても明るく優しくて、たまたま私たちがそれぞれ観て面白いと思っていた映画についての話題でとても盛り上がった。どの先輩が本当の先輩なのかな?
「ねえ、先輩って彼女いるの?」
若菜が聞いてくる。
「いるみたいよ。ただし、クリウスの中ではないみたいだけど」
「そうなんだ。大人とか?それとも昔同級生だった人とか?」
そこまでは分からない。そう思うと、先輩とは何度か話しているにもかかわらず、先輩のことはほとんど何も知らないような気がする。確かなことはKZが好きだということ。
「でもKZのことを教えてくれたのなら、他のこともいろいろと聞いてみたらいいんじゃないの?」
「そんなあ、聞けないよ。電話していても、いつの間にか私のほうがたくさん話している感じがするし」
「ウソ、信じられない。私だったら緊張して何も言えなくなるよ。しかも深雪は普段口数が多いほうじゃないのに、先輩はその深雪に話をさせちゃうわけ?・・・どうなってるのよ」
それは私にもよく分からない。でも、先輩から電話がかかってくると、嬉しいし、楽しい。でも切った後は、申し訳ない気持ちになる。
「どうして私のために、そこまでしてくれるんですか?」
また今日も電話をかけてきてくれたので、聞いてみる。
“君と話していると楽しいから、そうしているだけで・・・もしかして迷惑だった?”
「いえ、迷惑だなんてとんでもないです。私も楽しいですから」
そう、よかった、と先輩が微笑む様子が目に浮かんできて、私も嬉しくなった。