どうにも、まっすぐ自室に帰る気にはなれなかったので、展望台に向かうことにした。仕方がないこととは言え、辛い。これからも有紗さんとは毎日のように顔を合わせることになるのに、どうしたらいいんだ・・・慣れていくしかないんだ、きっと。読まなければならない資料もたくさんあるのに、集中するどころではない。何をやっているんだ、僕は。
展望台は天井がドーム型になっていて、スイッチにより外屋根を開閉することができる。今日は天気が悪く星は見えないが、雨が打ち付ける様子を見上げるのもまたいい。僕は部屋を囲むように置かれたベンチに寝転がり、雨音に包まれながら、雨だれを眺める。
昔から、何かあるといつもここに来ていた。こんなに眺めがいいのにいつ来ても誰もいない。ここに住む人たちは仕事で頭がいっぱいで、星を見ようという気にはなれないらしい・・・殿下を除いては。その殿下も、今は舞さんととても幸せそうにしていらっしゃる。
そうだよ、僕にも素敵な彼女ができたのだから、連絡しない手はない。・・・けど、時間が遅すぎないかな?
“はい、もしもし”
「ゴメン、こんな時間に。起きてた?」
“はい、寝ていたら、電話に出ていません”
それもそうだ。彼女はテスト勉強をしていたという・・・そうか、テストが近いんだよね。
「ゴメンね、声が聞きたくなったんだ。このままじゃ何も手につかない」
“何をしようとしていたんですか?”
「何だろうね、それすらも思い出せないほど、今はただぼぉ~っと雨が降るのを見上げていた」
“先輩の電話から、凄い雨音が聞こえていますよ。私の家はそんなにしないんですけど・・・”
「今、展望台にいるんだよ」
“展望台?”
「うん、宮殿で一番空が近い場所にあるのに、誰にも来てもらえないかわいそうな場所なんだ。君にもいつか見せてあげたいな、ここで見上げる満天の星空を」
星が降ってきそうな気がするくらいだよ。とても綺麗なんだ。
“先輩の家って宮殿なんですか?”
「・・・うん?家は別のところにあるけど、僕はほとんど宮殿の中にある部屋で暮らしているよ」
“え?宮殿って、あの王宮の宮殿ですか?”
「うん、首都には他にないと思うけど・・・」
“あっ、そうですよね。先輩の家が宮殿みたいに凄くて、そう呼んでいるのかと思いました”
え?・・・一瞬の間を置いて、僕は大いに笑わせてもらった。