先輩はやはり忙しいらしく、部活の勉強会には来ていない。先の中間テストは参考得点だということだったらしいけど、一年からずっと成績は一位だと聞いた。・・・ちなみに部長も。あぁ、私は試験どころじゃない感じなんだけど、あまりに悲惨な点数を取ったら先輩に顔向けできなくなる。
「沢渡くんは優しくしてくれるの?」
はい?急にみんなの前で沙紀先輩に言われた。一応私たちのことは敢えて話したりしていないのだけど、いつの間にか部内では周知の事実になっているみたいで・・・でも、そのことについて何か言われたことは今までなかった。
「はい。忙しいのに電話をかけてくれます」
「ふ~ん、私には沢渡くんが個人的に誰かに優しくするところなんて想像できないな。ほら、沢渡くんって役のためには何だってするから、役と現実との区別がつかないときがあるみたいだし」
・・・それはどういう意味ですか?
「沙紀ちゃん、ちょっと待って」
村野先輩が口を挟む。
「深雪ちゃんに、そんなことを言ってもしょうがないでしょ?私たちは、見守ってあげればそれでいいの」
「別に嫌味でも何でもないよ、ただ聞いてみただけ。今までことごとく告白を退けてきた人だから、気になるじゃない?」
部屋は静まりかえった。・・・それは、みんな同じ気持ちだということ?
「みんな、少し待って。深雪ちゃんを困らせてしまうだけでしょ?」
すると今度は部長が割って入ってきて、私の隣に座った。
「演劇部は恋愛を推奨する。それが、作品にいい影響を与えるのなら。でも他人の恋愛にまで口を挟まないこと。・・・少なくとも、今はそっとしておいてあげるのが一番いいと思うわ。沢渡くんがいないのに、私たちがああだこうだ言うのも失礼だしね」
「そうですか、沢渡くんは本当に彼女のことが好きなんですね」
そして沙紀先輩は部屋を出て行き、兼古先輩がその後を追いかけた。・・・何だか様子が変。
「いいのよ、深雪ちゃんは気にしなくても。私は、とてもお似合いの二人だと思ってる」
部長はそっと肩を抱いてくれる。・・・でも何がどうなっているのか私には全然分からないので、別室で説明してもらうことにした。