試験中は午前中で学校が終わるので、すぐに議会に行きたいところだけど、しておかなければならないことがある。それは、沙紀ちゃんと話をすること。
「僕に聞きたいことがあるなら、直接聞けば?」
沙紀ちゃんの気持ちも分からなくはないけれど、深雪をいじめるのは困る。
「そうやって怒ってるってことは、深雪ちゃんのことが本当に好きなのね」
うん、と、しっかりうなずく。
「それが分かれば十分だわ。・・・深雪ちゃんは幸せね。好きになってもらったんだもんね」
・・・あの、ずっと引っかかっていることがあるだけど。
「その、斜に構える感じ、やめてくれない?きちんと話ができないじゃないか。そんな風に嫌味を言うのは沙紀ちゃんらしくない、それじゃあ、他のみんなと同じだよ」
「そんな風にしたのは誰よ?思わせぶりな態度だけ取って傷つけるんだもん、ひどいじゃないの。・・・もちろん、まゆのことよ」
沙紀ちゃんは敢えてそう言ったけれど、沙紀ちゃん自身も怒っているんだ。でも僕は役のためにそうせざるを得なかったわけで、結果的に好きになられても、そしてそのことで咎められても困る。
「僕は深雪のことが好きだ。・・・今までこんな気持ちになったことがない、と思うくらいに。でもそのことで他の人を傷つけていることも忘れていない。この腕を見れば、否が応でも思い出すってものだよ、僕もこうやって代償を払っているんだ」
沙紀ちゃんは僕の左腕を凝視した。もう三角巾で吊らなくてもよくなったので、ジャケットに無理矢理腕を通せばパッと見は分からないが、それでもまだ荷物を持つことも、PCのキーボードを打つこともできない。
「いい気味だって思ってくれればいい。でも僕はこの想いを貫き通したい。・・・だから、責めるなら僕のほうだけにしてほしい、勝手に好きになった僕が悪いんだから」
「・・・そういうキザなセリフが似合うから、困るのよ。深雪ちゃんはメロメロでしょうね」
「深雪からは、やめてほしいって言われてる」
すると、沙紀ちゃんは急に笑い出した。・・・やっぱり、僕が言うことは普通じゃないのかな?
「深雪ちゃんは普通の感覚の持ち主なのね。よかった・・・」
そして後ろ手に手を振って去っていった。・・・僕としてはかなり複雑な心境なのだけど。